第7話 101回目のプロローグ
「最高——!転生したその瞬間、宇宙がブラックホールに飲まれて消滅とか、どんだけ持ってんのよあんた——(笑) ゼロ秒よゼロ秒! もうこの最短記録誰にも絶対抜けん。こんなの、どんな不幸の持ち主だって引き当てられん。私が自信持ってあんたを『神も認める世界一の不幸男』に推薦するわ——!」
この最短記録達成に、めっちゃ笑い転げまくる天女さん。
「ここまで転生10回のあんたの平均生存時間どれくらいと思う?」涙目で言う天女さん。
ほんと暇なのか、このひと。
「2年と21日と16時間2分よ。今までの転生者はどんだけ不運なひとでも20年くらい活躍したのに、あんたどんだけー」
「うるさい、次は必ず最長記録出してやる! 俺がここに戻ってこなくて寂しがるなよっ!」
◇◆◇◆◇
しかし、100回転生した今も相も変わらず不幸体質は変わらなかった。
最長記録どころか、平均2年と10日と4時間14分に短縮されてしまった。
天女さんが俺の肩に手を置く。
「あんたが適当にやっているとは言わないわ。異世界で生きるところ、ず——っと見てきたから。自殺もしないし自暴自棄なこともない。100回の人生、真面目に、実直に、誠実に生きていることは認めましょう ——」
うなだれている俺。
「しかし、ものには限度ってものがあるわよね、さすがに。100回転生して最長6年って、あんたそれはないでそれは。あんたひとりで異世界転生の平均生存年数下げてどうするん?
結局転生前の最初の人生30年が一番うまくいっていました、って。それないわ——
普通のラノベだと、うまく行っていなかった人生が異世界転生でみんな最強になったり無双したり悠々自適のスローライフ送るんよ。それが異世界転生ってもんよ。あんたが半ば諦めてた一番最初の人生が結果的に一番ハッピーだったって、あんたの異世界ライフどんだけ惨めなの。
こんな異世界転生もあるんだって世間に知れ渡ったら、もうみんな転生に魅力感じなくなって、こちとら異世界転生商売あがったりよ」
「—— めんぼくない」
「あんたに真っ当なスキル与えてても絶対無駄だったわ。なんの戦闘スキルも持っていないあんたが、この前の世界で頑張って幸運にも勇者認定受けてラッキーで魔王倒して世界の救世主になったのに、その直後に隕石に当たって死ぬとか、そっちのほうがずっと確率低いわ!」
「—— めんぼくない」
「ダーツの矢、手でボードに刺してめっちゃ楽な異世界選んであげてもあんたの不幸の方が上回るもんね。石にけつまずいては死ぬ、クラゲに刺されては死ぬ、見ず知らずの浮気相手に間違われて死ぬ。天女としての力不足感じるわ——。もうこれ以上、どないせいっちゅうねん!」
「本当にめんぼくない」
異世界転生担当官として転生者一人あたりの対応は一時間くらいに抑えるようにと指示されているとのことだが、俺は親切な天女さんにいろいろ相談したり質問したりして、この白い部屋でなんだかんだ数時間過ごすことが多かった。
すっかり天女さんに甘えちゃっている。
しかも、普通の転生者は一回で終わるが、俺はすでに100回も転生繰り返しているから、もはや俺のためだけにほとんどの業務時間使っちゃってるんじゃなかろうか。
今更ながら申し訳ない気持ちになった。
天女さんから面と向かっては言われていないけど、残業や休日出勤なんかもしてくれてたんだろうし、それでもノルマが達成できずに天界で肩身の狭い思いをしているに違いない。
「まあいいわ。私以上にあんたの方が辛いんだろうから。こうなったら、私がどうにか成功させてあげる!」
「え?」
「こんなに転生失敗させてるから、どうせ私の評価ダダ落ちだしね」
「でも異世界に一緒に行くことも、新しいスキル与えることもできないんだよね」
「そこはチョチョイのちょいよ。まあ大船に乗ったつもりで安心して転生しなさい」
◇◆◇◆◇
101回目の異世界転生。
俺が転生した先は、日本昔ばなしに出てくるようなありふれた里だった。
最初はいつでも住むとこ探し。
経験上、田舎の村にいきなり行くと、よそ者として警戒されることが多い。
まずは里の村をじっくり観察。
えばった村長とか影響力ある実力者とかいないかチェック。
こんなタイプがいるとせっかく村の人と仲良くなってもいきなり難癖つけられて追い出されたり、軟禁されたり、最悪殺されることあるからね。
そんな偏屈なひとはいなさそうでひとまず安心。
次は周辺の調査。
ほとんどが自分の畑を持つ農民だ。
ということは畑ない俺には普通に入れてもらうのが難しいということでもある。
何年もかけて信頼されて畑を手に入れる方法もあるのかもしれないけど、それまでに餓えて死んでしまいそう。
それも他のところで経験済み。
一番いいのは村の人たちが困っていることを知り、それを解決できるひととして受け入れてもらうことだな。
俺は観察を続ける。
医者とか鍛冶屋とか手に職持ってればいいんだろうけど、残念ながら俺にその能力はない。
まあ、じっくり観察してちゃんと需要見つけられればどうにかなるべ。
—— 数日こっそり盗み聞きして、徐々にこの里の困り事が分かってきた。
ゴブリンが定期的に里のヤギや農作物を持っていってしまって困っているらしい。
もうそろそろゴブリンが襲撃してくる時期なので、村は警戒していた。
村の長が畑作業のため毎朝通る道の傍で、俺は木陰で休む旅人のふりをして待った。
村の長が通りかかる。
「おはよう、この里はいいところですね」
村の長に声をかける。
第一声は警戒されない程度に挨拶程度に留める。過去の失敗を糧にして着実に成長する俺。
「こんなことで何をしている」
いきなり警戒された。この長、結構不審者センサー鋭いのか?
まあ、単にめったに他の人が来ることのない田舎なので誰をみてもまずは怪しむんだろうな。
「怪しいものではありません。私は南から来た旅の者です。名をサルタといいます」
怪しいものが自分は怪しいものではないっていっても効果ないだろっていつも思ってたけど、いざ自分の番になると思わず言っちゃうもんだね。
「ここへ何しに来た。ここにはなんもないぞ」
まだ警戒する村長。
「私は、ひとの困りごとを解決するのを
村長が険しい顔のまま言った。
「—— お前、ゴブリンを退治できるか?」
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次話『ゴブリンの村』へ続く
毎日1話ずつ投稿していきます。
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