第4話 異世界生存記録
「なにそれ——、こんなのはじめてよ————(爆)」
白い床、白い壁、白い天井……
気付いたら、俺はあの部屋に戻っていた。
正面には笑い転げる天女さん。
転生先での記憶がない。何があったんだ?
「あんた、あまりの眠さに負けて、転生しながら寝ちゃったのよ。盗賊の縄張りの街道のど真ん中で寝っ転がってたあんたは、盗賊に見つかって寝たまま殺されたの!」
再びツボに入ったらしく、天女さんの爆笑が止まらない。
「15分よ、15分。あんたが異世界にいた時間。もうこれ異世界生存最短記録更新だわー。私がどんだけ頑張って調整したと思ってんのよ。生存時間が調整時間の6分の1って笑えるわー」
おい!調整時間長かったのは天女さんの問題やろ! 俺なら調整も15分で終わっとるわ!
まあ、生存も15分だったけど。
「ちょっと待って、いま
おい、この世界にもメッセージあるんかい。しかも俺のネタで笑い取るな——!
笑いで頬を引きつりながら友達にメッセージしている天女さんを待つ俺。
異世界と天界では時の流れが違うらしい。異世界で百年経っても天界では数分程度。異世界での15分なんて天界では一瞬で、俺は転生した瞬間に門からぺっと吐き出されたようだ。
確かにその姿を想像すると笑える。
いや天女さんの友達にメッセされていること考えると、笑えんけど。
「あれ?眠かった割には今はすっきりしてる。転生って体力回復してくれるの? 充分寝た気がする」
「いや、あんた、向こうで殺されてこの部屋に戻ってきてからも、殺されたことにも気付かずにずっと寝てたのよ。もう6時間くらい寝てたから、それでスッキリしたんでしょ」
それを俺に伝えたこともまた新たなツボになったらしく、再び爆笑しはじめる。
「異世界転生規約第15条1項に違反しちゃうんじゃー?」
転生せずにこの部屋で長居したことのペナルティなかったっけと心配になった俺に、天女さんは教えてくれた。
「よく覚えてたわねー。でも大丈夫。あの規約は『調整完了後速やかに』が明文化されているだけだから、異世界転生のルール説明とか転生先決めとか調整の時間が長くっても一応ルール上は違反にならないの。あんたが寝てたから進められなかったってのは特にペナルティはないわ。
ほんとはルールなんていらないんだけどねー。いろいろ異世界転生でトラブルあって、いつの間にかどんどんルールが増えていってるのよねー。めんどうなことに」
それって、天女さんが自分で蒔いた種だな。絶対。
「それでどうする?」
ようやく笑いが収まり、天女さんが尋ねる。
「どうって?」
「次の転生よ。ある意味、あんたのスキルは成功ね。普通は異世界転生先で殺されたらそれで終わりなの。あんたがここに戻って来れたのはあんたの『転生やり直し』のスキルがあったからだわ。本当にあんた、不幸体質なのか悪運強いのか分からないわね」
天女さん、また笑いのツボに入りそうになりながら懸命に堪えている。
「で、次の転生先をまた選ばないといけないんだけど…… あんた大丈夫?」
「心配してくれてんのか。ありがとう。でもまあ俺が選んだスキルだからね。転生するよ。もう充分休んだし、次こそ転生成功させてくるね」
「まあ今度こそしっかり生きて、悔いなく転生終わらせてきなさい」
天女さんがウィンクする。
*
次の転生先が決まった。
どうやら次の世界では貴族の長男として生まれるところからの転生らしい。
赤ちゃんスタートのパターンもあるのか。『無○転生』系だな。
外からは生まれたての赤ちゃんにしか見えないが、俺の自我や記憶はすでにある状態らしい。これなら人生2周目みたいにチートで成長することできる。
お金持ちの貴族の長男だし、どうやら運にも恵まれた。転生ガチャ成功っていったところか。
普通に大人としての俺の知識をひけらかすだけで、みんな驚いて神童って言われるやつ一度体験してみたかった。楽しみ楽しみ。
その後大人になるにつれ神童からただの人に戻りそうな気はするけど。そのへん、このパターンの先駆者たちはどうやって乗り越えてきたんだろう?
まあいいや。
この人生2周目のアドバンテージをうまく使っておきながら、大人になるまでにみんなと決定的な差を拡げる方法をゆっくり考えよう。
何しろ生まれたところからのスタートだと時間にゆとりがあっていい。
転生門の調整は俺が指示を出して天女さんがダイヤル回すよう分担して15分で終わった。
「じゃあ、行ってくるねー」
「今度の人生楽しんでー。あんたにこれ以上他のスキルあげられないのが申し訳ない気はするけど、まああんたが望んだことだし我慢してね——」
「お金持ちの貴族の子供なら今度こそうまくいけそう。これでもうここに戻ってくることはないとは思うけど、俺に人生やり直すきっかけくれてありがとう。さよなら」
また、門に吸い込まれ、俺は異世界に飛んだ。
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次話『こんにちは赤ちゃん』へ続く
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