第2話 トラップ回避スキル
うわー、めっちゃ悩むー。
どんなスキル希望したらトラップに引っかからずに済むんだろう。
—— 全く想像つかない。
*
聖剣もらっても、俺の剣の腕が足りないばかりに役に立たないとかありそう。
勇者になって魔王倒す人生も試練ばかりで別に楽しくなさそうだしな。
こんなケースでトラップ回避確実にできそうなスキルあったらもういろんなラノベで定番になってるはずだもんね。
それがないってことはどんなスキルでも簡単にトラップ引っ掛けられるってことだもんなー。
*
神にお金持ちになりたいって願ったら、身体から紙幣出てくる能力授かった主人公もいたし。
あれ救世主じゃなくって変なマジシャンやん。
どう考えたっておかしいやろ。
彼は「世界を変えられるくらいのお金持ちになりたい」って願ったんやで?
それがどう解釈されれば「身体から好きなだけ高額紙幣出せる能力」になるの?
しかもその紙幣は全て同じナンバーって、どんなトラップ仕掛けてんねん。
ありえんだろー。そんな中途半端な能力って知ってたら欲しくないわ。そんなもん。
もっと具体的に正確に「全て異なるナンバーの本物の高額紙幣(偽札とは疑われないもの)を、身体から生えるのではなく、好きなタイミングで好きなところに好きなだけ出せて、しかもどんだけ出しても身体に異変が生じないし、誰にもその能力を疑われたり、悪用狙われたりしない能力」をくれとでも言うんかい?
これでもまだトラップありそうだけどな。
*
「どんな願いごとでも何度でも叶えてくれる能力」みたいな万能なやつはどうせ拒否されるか、実際に使いたい時に「ぶっぶー、あなたのその願いは条件にあてはまらないので無効となりました」的な軽いテイストで無慈悲にも封印されるんだろうし。
どんなスキルもらっても俺だと使いこなせない未来しか思い浮かばん……。
そんなネガティブ思考な俺が何を望むのか。
—— これはもはや哲学だな
もし転生とは無関係にでも何かひとつ能力もらえるとしたら、俺は何を望む?
何か欲しいものあるのか?
うーん、一つも出て来ない……
ずっとうまくいかない人生で、もはや自分が何を望んでいるとか考えなくなってたからなー。
—— 惰性で生きるってほんと怖い。
もし一度でもうまく行ったことあったら、こんなネガティブな発想でなくもっと前向きになれたんだろうか。
今からでもやり直したい。
もっとポジティブシンキング人間になってから転生の話し持ってきてほしかったな。
……
—— そうか、俺、人生やり直したかったんだ。
一度でもうまくいく人生やってみたかったんだ。
失敗をうまくリカバリーできる人間じゃなかったんで失敗続きでいろいろ人生諦めるクセがついてしまったけど、そんな俺でもやり直せる能力があったら人生どうにかなったんじゃないか。
「一度の転生に失敗しても、何度でも転生やり直せるスキルがほしい」
「え?」
天女さん、全く予想してなかった俺の願いに目が点になる。
「そんなスキル、今まで聞いたことも見たこともなんですけど⁉」
「何でもいいって言ったろ? 神の言葉に二言はないよね」
「転生天女もう長いことやってるけど、こんなふざけたスキル欲しいって言ったの貴方がはじめてよ。もうちょっとよく考えたほうがいいんじゃない?」
「いいや、これにする」
「考えてもみなさいよ。転生繰り返せる能力って言っても、転生先では全く役に立たないんだからね。貴方、普通の人間として異世界に行くことになっちゃうのよ? チート能力どころか無能力よ、なんの魅力もないのよ、素のままの貴方は」
なんか最後にごくごく自然にバカにされた気はするけど、まあいいや。
どんなスキルもらったって使いこなせないんだったら、失敗してもやり直せることの方が大事だろう。
不幸体質の俺が一度の異世界転生で幸運を引き当ててハッピーな人生送れるとは思わんしな。
天女さんが俺を正しい転生者の道に戻そうと、必死で言いくるめようとする。
「異世界でモテモテハーレム作れるとか、何度死んでも『死に戻り』してかわいいメイド服の鬼さんに最後好かれるとか、何でも喰らって強くなる蜘蛛になるとか、本作るとか、スライムになるとか、スマホ持っていきたいとか、家庭教師だった魔法使いや幼なじみのハーフエルフや勝ち気なお姉さん気質のお金持ち娘とか気に入った子全員と結婚しちゃうとか、幼女に生まれ変わって戦争したいとか、他にも便利なスキルたくさんあるでしょ!」
「あ、そうか!女神を異世界に連れて行くってのはありだな!」
「それだけはダメー、絶対ダメー。
「じゃあ、『どんな願いごとでも何度でも叶えてくれる能力』は?」
ダメ元で聞いてみる。
「それは異世界転生規約第32条1項でいの一番に禁止になってるわ。みんなが一番最初に考えるからね」
残念でしたあっかんべーでもするかのような天女さんの顔。
だんだん天女さん困らせたくなってきたわー。
「じゃあ、やっぱり『何度でも転生やり直せるスキル』だな。もう譲れん」
しばらく押し問答が続いたが、頑として譲らん俺を説得するのを諦めたのか、天女さんは覚悟を決めてうなずいた。
「それじゃ『何度でも転生やり直せるスキル』でいいのね」
「うん、それでお願いします」
「転生の仕組みがスバルきゅんタイプとは言っても、同じ人間としての『死に戻り』はできないからね。その点は注意してね。その世界で一度死んでしまったら、それで彼の人生は終わり。そこでの彼としてもう一度人生やり直すことはできないからね」
そうか、それはちょっと考えていなかったな。確かに異世界に転生するんで、別の人間となることはあっても同じ人間にはなれないよな。把握。
「うん、それでOK」
「では貴方に『何度でも転生やり直せるスキル』を授けます」
天女さんが厳かに言う。が、しまらん名前だな、このスキル。言い出しっぺの俺が文句言う筋合いではないが。
そう思った瞬間、眩しい光が突然俺の前に浮かんだ。光は小さくくるくるっと回って飛ぶと、次の瞬間には俺の胸に飛び込んだ。
急に身体が熱くなる。と、すぐに収まった。
「これで『何度でも転生やり直せるスキル』は貴方の魂に刻まれました」
あっけなく終わる。
「—— 次はいよいよ待ちに待った異世界転生よ」
天女さんの口調が、先ほどまでのラフなものに戻った。
そして、いよいよ異世界転生が始まるのであった。
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次話『はじめての異世界転生』へ続く
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