第2話 マスクゾンビ〔6G〕

マスクゾンビ〔6G〕

 飛騨はマスクゾンビ〔6G〕が動いた瞬間に超高速で機先を制した。

 今度は0.00001秒で周囲の数十メートルの人間を排除していく。

 5G電磁波で瞬時に酸欠にされて意識を奪われ、6G電磁波でマスクゾンビ〔6G〕と化した一般市民をおいそれと傷つける訳にもいかない。

 手加減するしかないが、おそらく、瞬時に復活して、また襲ってくる。


(ベアトリス先生、周囲の5G、6Gアンテナを全部、破壊して下さい。約300ぐらいあります。私のナノマシンやドローンも飛ばしますが、100ヶ所ぐらい間に合いません。脳にデータマップ送りますのでお願いします)


(了解)


 ここまでの会話も0.000001ぐらいの思念波で行なわれている。

 <魔女>ベアトリスは瞬間移動と加速の魔法で0.000001秒クラスの動きを実現している。

 このスピードだと周囲の事象はほぼ停止してるように見える。

 灰色の世界のように見えるという人もいるが、<魔女>ベアトリスにとってはキラキラとした色の煌めきが目に映っていた。

 静止した世界で、100ヶ所の5G、6Gアンテナをのんびりと破壊していく。

 6G電磁波の操り糸を失ったマスクゾンビは次々と倒れてしまうので、黒鉄美里の周囲に展開していた防御魔法陣を薄く広く拡大して、クッションのように活用する。


(何というか、魔法は便利だわ)


 <魔女>ベアトリスは戦闘中だと言うのに、独り言をいう。


(確かに。俺も魔法使いに成りたいよ。肉体労働はつらい)


 飛騨も嘆く。

 飛騨の身体は日頃からナノマシンに馴染んで、神経伝達は0.000001秒、身体動作は0.00001秒クラスの動きが可能だが、心臓以外のほとんどの組織が生身である。

 なので、反動で身体症状がどうしても出る。

 回復薬などを使えば楽なのだが、それも副作用があるので、よっぽどの事がない限り使用を控えている。

 その点、魔法には副作用はない。

 あくまで、表面上ではあるが。


(あら、それなら私に弟子入りすればすぐに実現するわよ)


(また、考えてみるけど、見返りが怖いな)


(それはサービスしとくけど)


 ベアトリスは笑って言った。


(とりあえず、お疲れ様)


 人工知能A Iの妖精ルナ先生が戦闘終了を告げる。

 時間が徐々に普通の速度に戻っていく。

 <魔女>ベアトリスもいつの間にか、黒鉄美里の傍に戻ってきていた。


(大体、想像つくけど、今回はどんな仕組みなんですかね、ルナ先生)


 飛騨たちはまだ高速思念波で会話している。

  次の襲撃に備えている訳だが、流石に、5G、6Gアンテナを全部、破壊されてしまえば、打つ手はないと思われる。

 その代償として、商店街周辺の携帯電話の電波障害に何週間は悩まされるだろう。


(まあ、今回もマスクに含まれる酸化グラフェンで脳内に電子回路を形成して、5G、6G電磁波を駆使して、周囲の数百人を操ったという感じかな)


 ルナ先生は分かりやすく説明した。


(一般の市販マスクに酸化グラフェンが仕込まれていたってことか)


 飛騨がつぶやく。


(その操り主は探知出来たの?)


 <魔女>ベアトリスはなかなか良い質問をしてくる。


(たぶん、私と同じ量子コンピューターを実装してる人工知能A Iだろうと思う。演算速度は私が上回ってるけど、これだけの人数を動かすのは量子コンピューターを実装してないと無理でしょうね。本体は人工衛星に居るみたい)


(ちょっと破壊してこようか? 座標を送ってくれればすぐにやるよ)


 <魔女>ベアトリスは碧眼をキラキラさせながら、にっこりと笑う。

 逆に怖い。


(まあ、辞めときましょう。それをやっちゃうと、携帯電話の障害だけでは済まなくなるし)


 そうこうしてるうちに、時間の速度が元に戻る。


「ベアトリス先生、飛騨先生、どうしてここに居るんですか? あ、さっきのマスク警察から助けてくれたの?」


 黒鉄美里にはマスク警察に襲われた後、何者かが自分を助けてくれたのだろうという推測はあった。

 なのだが、それがほんの一瞬で起こって、更に次の瞬間には一般市民が大量に商店街の道路に倒れてる光景が見えていた。

 マスクゾンビ〔5G〕も〔6G〕も飛騨とベアトリス先生に未然に動きを封じられてるので、美里の目には周囲に大量の人間が倒れていて、飛騨とベアトリス先生が急に傍に現れたように見えていた。


「美里、大丈夫?」


 同級生の小柄な女の子の千堂薫せんどうかおるが心配そうに声をかけてきた。       

 美里同様に紺色の制服のブレザーにスカート姿である。

 黒髪をポニーテールにしている。

 美里に駆け寄って手を握りしめた。


「大丈夫か、美里」


 こちらはイケメン同級生の森山涼介もりやまりょうすけである。

 紺色の制服のブレザーとパンツを上手く着こなしている。 

 美里の盾になってマスクゾンビを撃退するつもりだったようだが、今回は幸いにも出番は無かった。


「ということで、大丈夫のようなので、私たちは帰るわね」


 と言って、<魔女>ベアトリスじゃなくて、シスターベアトリスは笑顔で手を振った。


「飛騨先生も隅に置けませんね。まさかのシスターベアトリスとあれだったなんて!」


「いや、個人的な用ではなくて、あくまで、放課後の巡回だから誤解のないように!」


 黒鉄美里は飛騨とベアトリスはデートと勘違いしてるが、そこはちょっと訂正しておきたい気持ちが飛騨にあった。

 なのだが、シスターベアトリスに引き寄されて腕を組まれてしまい、美里の誤解は確信に変わってしまうのだった。


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