第13話 魔術

「そういえばラファガ様はオサ・マジョール様にも似てらっしゃいますね!」

「ああ……」



 サビオがラファガに対して憧れを膨らませる原因の一つとして、彼がオサ・マジョールの伝記を読んだことがあった。



 トリエノから渡された伝記は、馬鹿みたいに分厚かったが一週間もあればサビオも読み終えることが出来た。


 その伝記の中で描かれているオサ・マジョールの姿は、稀代の魔術師と呼ばれるに相応しい。体格に恵まれず、いつまで経っても子供のような姿であったといわれているオサ・マジョールだが、だからこそ彼の持つ物語は魅力的で、人々を冒険に駆り立てるような伝説をいくつも持っていた。



「女の子が無くした探し物をパッと手を叩くだけで見つけて、届けた話が好きなんですよ〜」

「そんな話があるんですか?」

「そうなんです! 他にもドラゴンと戦ったり、困っている人々を救う話も沢山あったんですけど、その話が印象的で——」



 どうやらすっかりオサ・マジョールの魅力に取り憑かれたらしいサビオは、伝記に書かれていたエピソードをいくつか抜粋してアコニトに語った。


 それは平民の間でも有名な〝おとぎ話〟であることもあれば、妙に現実的というか人間らしさが滲み出ているエピソードもある。アコニトも知らなかった話の中には、確かにラファガのようにオサ・マジョールが振る舞うものもあって、サビオがラファガとオサ・マジョールのイメージを混同してしまうのも仕方がないと思えた。



「手を叩くだけで欲しいものが出てきたらすごく便利ですよね!」



 そうして無邪気な笑顔を浮かべながら花瓶の水を換えるサビオに、アコニトは真顔のまま答える。



「でも、物を出す魔術なら私も使えますよ」

「え!?」



 驚いてまたもや花瓶を落としそうになるサビオの前で、アコニトは腕を真っ直ぐ差し出すと片手で筒を作るように軽く握る。




「——バモス、トゥリパン」




 その掛け声と共にパッと現れたのは、赤と黄色と白の——可愛らしいトゥリパンの花束。



「わぁああああああ〜〜〜!?」



 サビオは、叫び声を上げるとアコニトの手の中を覗き込んでそのトゥリパンの花とアコニトの顔を見比べる。


「ど、どうやったんですか!?」

「どうって……これが私が使える魔術なので……」



 アコニトがサビオから水で満たされた花瓶を受け取りながら答えると彼は輝く瞳をアコニトに向ける。



「何が、どうなっているんですか? 仕組みは?」

「え、いや……知りません……」



 興味津々で質問を投げ掛けてくるサビオに若干顔を引き攣らせるアコニトは、受け取った花瓶にトゥリパンの花束を生けるとそれをトリエノの部屋に飾りに行く。


 その後ろをサビオもついていくが、彼はアコニトの答えに不満気だった。



「どうしてですか? 魔術には、そのような結果を導き出す根拠と、理論が存在するんでしょう?」



 だったら、何がどうなったのか説明だって出来るはず——と勝手にペラペラと語るサビオに、アコニトは急に立ち止まるとクルッと振り返る。



「あのですね……」

「はい!」

「……普通はそんなこと気にしないんですよ」

「はい?」



 アコニトが披露した魔術の仕組みが知りたかったサビオにとって、その答えは予想外だった。

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