日常 2

 そういえば今日は秋帆あきほの誕生日だったな。

 揺れる稲穂を見て、すっかり抜け落ちていた妹の誕生日を思い出した。

 俺が高校に進学して以来、秋帆と顔を合わせることはほとんど無くなってしまっていた。

 同じ家にいるはずなのに顔はおろか、姿すら見かけない。

 ご飯のときも、廊下を歩くときも、ここ半年間、妹の姿は目に入ってすらいなかった。

 それでも、使った食器や脱ぎ捨てられた靴、洗濯物などはたしかにあり、そのおかげで、少なくとも秋帆が自分の妄想の中での存在でないことは確認が取れていた。


 ふと、窓の向こうに広がる稲穂の海が大きく揺れた。

 突然の風に開け放たれていた窓ガラスが揺れ、掲示物は風にあおられてバサバサと音を立てた。

 咄嗟に逸らした意識を再び窓の外に戻すと、稲穂は秋空に浮かぶ夕日を反射して美しく照り輝いていた。

「はぁー」

 大きなため息が漏れる。こうも美しいものを見ると否が応でもさっきの不気味な夢を思い出させられる。

 今外を見る限り、霧は出ていないし、あんな辺ぴな場所に行く用事もできてはいない。

 あの時、夢の中で感じた妙なリアルさにどことない不安を感じたが、それも終業のチャイムにかき消されてしまった。

 前に立つ教師はそれを聞くと物足りなさげにチョークを置き、号令を促した。

 俺達は立ち上がると、礼を言って再び席に着き、先生は自前の分厚い本を担いで教室を後にした。

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