日常 1
「うぅ――」
目を瞬かせ周りを見渡す。
目の前には黒い服を着た男の背中。自分の右手にはシャープペンシルが握られている。
―—ここは……そう、教室だ。
その事実に気づき、とっさに机の上を見る。
案の定、ノートはシャーペンによって描かれた黒い糸と自分の垂らしたよだれでぐちゃぐちゃになっていた。
ティッシュを取り出し、よだれをふき取る。
もはや手遅れかもしれないが、やらないよりかはマシだ。
さっきまで書いていた文章は若干にじんでいるし、ノートを
前の男子の座高が高いのをいいことに、その陰でそそくさとノートに応急処置を施した俺は何食わぬ顔で授業へと復帰した。
その日の学校はこの授業で最後だった。毎度思うのだが六限に古典を持ってこられては眠ってしまうのも無理ないだろう。
それなのに寝ていたら怒られるというのはいかがなものか。
周りを見てもコクリコクリと首を上下させている生徒の方が圧倒的に多い。
その上、今日の題材は先生の趣味で日本神話。
こんな話、興味を持っている奴なんてそこまで多くはないだろうに。
先生は黒板にチョークを走らせる。
冥界がどうたらと書かれているが、正直読む気がまったくと言っていいほど起きない。
目は次第に黒板の上の時計へと動く。
残り時間十分。
同じ十分でも休み時間はあんなに短いのに、どうしてこう授業となると永遠ともいえる時間になるのだろうか。
そんなくだらない疑問を遮るかのように、先生の声が響く。
「ここでイザナギノミコトが冥界を脱し、
―—心底どうでもいい。
そう心の中で授業に見切りをつけると、窓の外に視線を移し、黄金色に揺れる田んぼを訳も無く見つめ始めた。
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