帰路

「アイツなんなの?」

 帰途に就きながらもオリヴィアはまだご立腹の様子だった。

 壊した窓だったり、ビスキュイの今後だったり、アーサーの胃袋の平和はまだ遠いだろうことを思いながら、俺はそんな彼女に声をかける。

「まあ、一旦落ち着いて。どうせあの先生もオリヴィアが怖くて当分授業は出来ないよ」

 それに対してオリヴィアは関心なさそうに、そう、とだけ返してきた。

「まあもういいわ。とりあえず今怖いのは先生ね。……帰ろ。宮代」

 オリヴィアはあの惨状が何でもなかったかのように話を先に進める。

 切り替えが早いというかなんというか。

 魔術師同士の戦いの一部を始めて目にした俺は、とても彼女のようには出来そうもない。だか、それでもどうにか作り笑いを顔に貼り付け、先を行くオリヴィアに続いた。

 さて、その後寮に帰って待っていたのはアーサーの雷、ではなくまさかの「大丈夫だったか」という心配の言葉。

 後でアーサーに聞いたところによると、授業中、ビスキュイは生徒を罵倒し、それに対してオリヴィアが反論したところ、ビスキュイは錯乱。窓ガラスを砕いてオリヴィアに当てようとしたが、オリヴィアの力の方が強く、逆流した幻素のせいで破片がコントロールできずに自分を切り裂いた、ということになっているらしい。

 間違ってはいないのだが、少しばかり実際とは違うことになっている。

 誰が話をすり替えたのか、ジェームズの言葉を思い出し、俺は一人で納得した。

 とまあ、こうしてとんでもない事件と、巡り会いともに俺のカレッジ生活は幕を開けたのだった。

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