魔術という科学、魔法という神秘

「なら、魔法について聞いてもいいですか?」

 アーサーは眉を僅かに動かしてみせる。

「魔法か。最近オリヴィアにも話した気がするが、魔法とは一言で言えば奇跡のことだ。

 より正確に表現すると、この世の原理に依らない神秘の技。さらに言うと魔術は一般化出来るものだが、こちらは一般化できない。

 なぜなら魔法というのはそもそもこの世の原理に依らないものだからだ。

 少し難しい話になるが出来る限り簡潔に話そう。

 現在、私達に宿る原理に限らず、この世の全ては『一なるもの』から流出した結果生じたものだとする説が最も有力だ。だが、どうやっても魔法は原理によって再現が出来ない。ならば、そもそも原理とは異なるモノだと推測が付く。

 だが、無から有は生じない。この世の始まりは変わらず一なるものだ。

 それ故、出所の分からない魔法という神秘の行使には一なるものへの接続が必須となるとされる……。

 いや、正確には逆か。一なるものへと回帰を果たした一握りの者だけがこの魔法という新たな神秘を知ることができ、行使できると考えられている」

なるほど、つまり魔術は再現性という点で科学の範囲と被るが、魔法は埒外の技というわけだ。シンプルで良い。

 俺は若干伸びている自分のカップ麺を聞いた情報と共に咀嚼した。

 今までの説明も、この世界では基本の基の字に間違いないだろう。そのおかげでなんとなくこの世界の一端が掴めてきた気がする。

 あくまで自分が使えるかどうかは別の話となるが。

 口の中を空にしてアーサーに礼を言う。それに対しアーサーは私に出来るのはこれくらいだ、と謙遜とも、一部の人からしたら嫌味とも取れるような言葉を吐いた。

「あとは、大丈夫かい?」

「あ、ピタゴラスについて。あれ、女性でしたよね?」

 ノーブルサークルでのことを思い返し、その問いを口にする。

「ああ、今のピタゴラスの体は女性だ。車の中でも話した通り、ピタゴラスという名称はある魂を指す言葉だ。彼の魂、今の場合は彼女の魂と言った方がいいかな。とにかく、ピタゴラスは転生をしている。何度も死んでは何度も黄泉帰ったのさ。そして、今代のピタゴラスの宿った体が女性のものだった。それだけの話だよ」

 アーサーは何でもないことかのように言う。が、転生とかまで出てくると頭が追いつかなくなってくる。

 まずもって転生が実際に存在するということには驚くし、それが魔術の範囲内にあるものなのかも怪しいところではないか。

「あとはあるかい? 宮代君」

 アーサーは言う。オリヴィアはといえば、本を読んで寝転がったまま。

 聞きたいことはまだ残ってはいるがそろそろ疲れが出始めた。情報過多といっても過言じゃない。

 質問はここらへんで終わりにして次に移ってもらおう。

「いえ、今のところはこれくらいで」

「そうか。何か分からないことができたら遠慮なく私かオリヴィアに聞きなさい。分ることならいつでも教えよう」

 といったところでアーサーは親しみのある顔に戻って続けた。



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