瞬間移動の謎

「まだ色々と説明すべきだろうことはあるんだが、それは後々行うとしよう。授業でも学ぶだろうしね。それと、……君の質問が済んだら君の幻想導線がどれほどのものなのか確認しようと思うんだが、いいかい?」

 アーサーは俺を見て言う。

「はい、それはいいですけど……。どうやって?」

「ああ、それなら簡単だよ。私が君の体に幻素を流して、間接的に君に魔術を行使させる。それでどれほど私の魔術が反映されるかで測ろうと思っている。そこにいるオリヴィアなら私の思った通りに魔術が働くから、その発達度合いは私よりも遥かに上にあるだろう。逆に私の魔術が君の体を介して少しも働かないのであれば、あまり発達してはいないということになる。どうかな? 一応、この方法なら君も体の中にエーテルの流れる感覚が分かると思うが」

「……切り開くとか、そういうことじゃなければ問題ないです」

「なら良かった。ありがとう。それじゃあ続きだ。他に聞きたいことはあるかい?」

 いつの間にかカップ麺を汁まで完食していたアーサーは楽しそうに言った。

「それなら瞬間移動について、魔術では出来ないと聞いたんですけど。どういうことか詳しく知りたいです」

「うん。今日の飛行機でのことだね。マニングからも聞いたよ。確かに、超遠距離で対象を絞らない瞬間移動は無理だが、瞬間移動が完全に不可能かと言われればそんなことはない。特定の条件下であれば限定的に瞬間移動も可能だ」

 店長とは口を異にするアーサー。どちらを信じるかは想像に易い。

「この特定の条件下とは、まず第一に、視界に収まる範囲内に移動物と、移動先が存在すること。次に、瞬間移動する対象が完全に静止していること。そして最後に移動先の状態が確定していて移動対象と同じ材料があることの全てが揃っている状態を指す。

 だが仮にこれらの条件をすべて満たしたとしても、瞬間移動には膨大な幻素を使う。だから術者にも相当の実力が必要とされるわけだ。その上、実現させるためには複数の原理を噛ませる必要がある。つまり、非常にコストパフォーマンスが悪い。多少の例外はあるかもしれないが、それもほぼ無いに等しい可能性だ。

 だから、不可能だ。する者などほとんどいないと言う方が正確だろう」

「なるほど。じゃあなんで俺達は瞬間移動が出来たんでしょう」

「申しわけないが、そればかりは私も分りかねる。無に等しい可能性の中から誰かが画期的な魔術理論を打ち出したか、それだけに特化したものすごく優秀な魔術師が居たか。……もしくは魔法が行使されたかのどれかだと思うが」

 アーサーは肩をすくめて言った。

 答えはそれだけで十分だ。魔術師の先生であっても分からないとなれば、新参者の俺がいくら考えても答えなど見つからないだろう。

「さて、他にはあるかな? 何でもいいぞ」

 調子を変えてアーサーは口を開く。

 俺は少し思案して、疑問を口にした。




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