魔術とは何か

「魔術について教えてもらいたいです。魔術とはどのようなもので、どうやって使うのか。その辺りを」

 そういった俺の言葉を頷きながら聞いたアーサーは口を開く。

「いい質問だ。その知識は新参者の君にとっては聞かざるをえない質問だね。

 我々の世界では一般に『魔術』とは、この世に存在する原理を用い、結果を実現させる神秘的な技のことを指す。これとよく似た名称の『魔法』と呼ばれる神秘も存在するが、これとは明確に区別されるものだ。混同してしまわないように注意してくれ。

 魔術において用いられる『原理』というのは数学や物理学で証明される法則のみを指すわけではなく、人の集合的無意識によるものや、物の性質などのことも指す。まあ、例としてそこの暖炉で燃えている火を使おう」

 アーサーは隣でパチパチと音を上げる暖炉を指した。

「今、隣で燃えている火を起こすには酸素といった支燃物や枝などの可燃物、そして発火点まで持っていくためのエネルギーが必要となる。

 だが、発火点を超えるまでの作業というのはなかなかに大変だ。君も手で火おこしをしたことがあれば分かるだろう。

 ところが、その過程を飛ばして熱の原理を用いることで火を起こすことが出来るのが魔術というものだ。熱の正体は君も習ったことがあるだろう?」

 試すような視線が俺を突き刺す。

「分子の運動、ですよね?」

「ああ、そうだ。であれば、材料調達や、木の棒をこする必要なんかない。直接可燃物の分子達を動かしてやればいい。こうやってね」

 ソファに座る魔術師はパチンッと指を鳴らす。すると、俺の目の前に暖炉の中の炎と同じように赤々と燃えるこぶし大の火の玉が現れた。

「うわぁっ」

 突然のことに驚いた俺は思わずそんな声を漏らす。そして、椅子から転げ落ちた俺は、驚きもさることながら危ないとか考えないのか、と不満を口にしかけてしまった。

 が、俺の無事は当たり前だとでも言うかのようにアーサーは続ける。

「さて、簡単な魔術を見せたところできっと君の中には新たな疑問が湧いたはずだ。どうやって分子を振動させたのかと。それを説明するにはまず魔術師と言う生き物についての説明を挟む必要がある」

 魔術師という生き物? その言い方だとまるで魔術師は人間ではないかのように聞こえる。

「私達魔術師の体の中には幻想導線マジックフューズと呼ばれる特殊な臓器が存在していてね。極論言ってしまえばこれが答えでもあるんだが、もう少し詳しく教えよう。

 この臓器の始まりはまだ研究段階だから詳しくは分からない。しかし、少なくともこの疑似的な神経ともいえるものは私達の全身に張り巡らされている。そしてこの臓器は、私達魔術師が魔術を行使する上で消費する大気中に存在する幻素エーテルを吸収し放出するといった役割を担っている。そしてその放出されるエーテルが私達の中に存在する原理と、この世界の原理とを結び付けることで神秘を発生させる。これが魔術の仕組みだ……、と言われている」 

アーサーは手に持ったカップ麺をすすりながらさらに続ける。

「少し曖昧な言い方になってしまって申し訳ない、宮代君。ただ、絶対に正しいとは言えないということを忘れないでほしい。それでも、当分はこの認識を基盤にすれば問題はない。魔術は原理と幻素の二つがあって成立する。いいかい?」

「はい。……フィクションで見るようなものとだいぶ違うんですね」

「そうだね。よく文学作品で目にする魔術ほど自由度は高くないのが現実だ。あれはどちらかと言えば魔法に近い。そうだ、せっかく幻想導線について話したから、ついでに魔術核マジックコアについても話しておこうか。

 この魔術核というものは簡単に言えば後付けの幻想導線のことで、魔術師の宝とも言われるものだ。どうして宝と言われるかについてはまた他に教えることがあるから、詳しくは省くが、この魔術核が人の紡いだ原理そのものだということは忘れないでほしい。

 これは幼少期に埋め込まれるもののため、魔術師の特性、つまり魔術属性はこの魔術核によって決定されることになる。このことも覚えておいてほしい」

 そう話し終えたアーサーはカップを近くのテーブルに置く。

 説明自体は明確で分かりやすい。だが自分にそれらの体内器官が存在しているかどうかは疑わしい。なぜなら、そのようなもの生まれてこの方、存在を体感することがなかったからだ。それにところどころ省かれた内容も気になる。魔法だとか、魔術師の宝だとか。





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