師
アーサーの部屋に戻ると、マニングの影は無くなっていた。
「おかえり」
部屋に戻った俺達を、そう言ってアーサーは出迎えた。
彼の手には新しいカップ麺。どうやら俺の予想はほとんど間違いなかったらしい。
俺は先ほどお湯を注いだ自分のカップ麺を取ると、部屋の中央にある机についた。
「そういえば宮代君。マニングが言っていたよ。君の調査については延期だそうだ。なんでも、君と一緒に来たヘイルズという男の話したことで色々と慌ただしくなっているらしい」
俺が麺をすすっていると、アーサーはふいにそんなことを言った。
なんで、と聞き返す間もなく理由も言ってくれたのはありがたい。それはそうと、店長の話した情報はどのようなものだったのかというのは気になるところだ。だが、マニングのいない今、アーサーがそれを知っているとは思えない。
「私もこれからは忙しくなるかもなぁ」
暖炉を見ながらアーサーは何やら嬉しそうにぼやいた。
オリヴィアはといえば、アーサーの座っているものとは別に置かれたソファの上でどこから持ってきたのか本を読んでいる。
二人とも知り合ったのはつい数時間前。ここでは時間が早く流れるのか、俺の中にあった二人への緊張感や警戒感は今やほとんど無くなっていた。それが魔術によるものなのか、それとも二人の人柄が為すものなのかは分からない。
ただそれでも、今こうしてここにいると、あの館を飛び出して以来感じることのできなかった安心感で心が満たされていくのだ。
端的にいってしまえば、ここは居心地がよかった。
「そうだ、宮代君」
と、アーサーはまたも突然話を始める。
「新しい環境で馴れないと思うが、何か聞いておきたいことはあるかい? 初めて触れる世界だ。意図も分からず他人に教え込まれるよりも、自分で拓いた方が覚えやすいだろう」
食べる手を止め考える。
聞いておきたいこと、質問か。
それはある、ありすぎるというくらいには。例えば、ピタゴラスが女だったことだとか、学生証にある魔術特性、魔術をどのように学ぶのかや、仕組みなどなど。挙げればきりがない。
「そんな迷わなくていいわよ。その人、自分でも言ってたけど先生だし、あなたの質問くらいなら答えられると思うわ」
「あはは、プレッシャーかかるな」
アーサーは言う。
「でもまあ、リヴィの言う通りだ。最初なんだし、分からないことは全部聞いておけばいい。私も出来る限りは答えよう」
そう言って足を組んだアーサーからは自信と威厳が感じ取れ、まさに教育者然として見えた。俺を見つめる眼光も鋭く、先ほどまでの親しみやすい顔は、そのなりを潜めている。
それなら、と俺は頭の中で質問に優先順位をつけた。
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