鏡合わせの部屋
「それじゃあ、出来るのを待ってる間にあなたの部屋に行っておくわよ。戻ってくる頃にはあの人達の話も終わってるだろうし」
オリヴィアは暖炉の前で話し込む二人を指して言った。
オリヴィアに続いてアーサーの部屋を後にする。
廊下は今となっては暗がり。明かりもないせいで少し不気味に見えなくもない。
そんな廊下を進むこと十数メートル。階段は建物に入ってすぐ、玄関を入った目の前にあった。
階段の奥は余計暗くなっているせいで、不気味どころかちょっとした恐怖を覚えるくらい。それでもオリヴィアはお構いなしに階段に足をかける。
踊り場を通って、そのまま二階へ。
二階も一階と造りは同じ。左右に四つずつ部屋があり、廊下に電気の明かりはない。部屋の反対側には窓が並び、一階よりも良い眺めを楽しめる。
が、この時間となってはほとんどただの暗闇だ。
「ここがあなたの部屋。といっても、隣の部屋と一つになってるから、実質私と相部屋だけど」
扉の前で少し不満げに漏らすオリヴィア。
その言葉には俺も驚きだ。
マジか。
女子と相部屋。男の夢ではあるが、嬉しさはどこへやら。果たして俺はこの子やっていけるのか、という不安が圧倒的に勝る。
「他の部屋は……」
定型文じみた言葉で訊いてみる。
「無いわ」
「でもあんなに……」
「ああ、大抵は物置か、黒焦げになってるわよ。そこがいいなら止めないけど」
黒焦げとは。そんな恐怖を煽るような言葉を言わないでほしい。
「まあ、私も割り切ってるし、そんなに気にしないで」
そう言ってオリヴィアは部屋の扉を開けた。
すると、パチという音とともに文明の明かりが部屋を照らした。
アーサーの部屋同様、この部屋にも電気は通っているようだ。
部屋はアーサーの部屋を二つ繋げたような大きさ。暖炉がない代わりにベッドが二つ、左右の木の壁につけて配置してある。
電気は通っているが、テレビは無く、代わりに本や紙の束が床に散乱していた。部屋の奥、オリヴィアのものとみられるベッドの足元にある本棚の上には、埃をかぶったボードゲームの類が重ねられていた。
うむ、……なんとも娯楽には困らなさそうな部屋だ。
「あなたはこっち側、私はあっち側」
そう言ってオリヴィアは予想通り奥のベッドを指す。
着替えはどうするのか、という問いが浮かんだが顔を背けるか、適当なついたてを立てればよいだけだと気づいた。
「トイレは階段の向こう側、シャワーはその下の部屋にあるわ」
つかつかと部屋を歩いて自分のベッドに腰を下ろしたオリヴィアは言う。
俺もそれに倣い部屋の中に足を踏み入れ、リュックを下ろしながら自分のベッドに座った。
俺とオリヴィアとの距離の見立ては約十メートル。遠いようで案外近い距離だ。
「それじゃ、戻るわよ。あなたに説明しなくちゃいけないことが沢山あるんだから」
オリヴィアはすくっとベッドから立ち上がるとそう言って部屋を出た。
息つく暇も無いな。そう思いながら俺は彼女に追従した。でもまあ、戻れば食事にはありつけるし、と自分を誤魔化しながら。
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