合流
そして次に来たのはしばしの沈黙。二人ともコップの中身と菓子に気を取られ話すことをやめている。
「さて、それじゃあ次は私ね。宮代君は外から来たんでしょう? だから――」
と、オリヴィアが口にしかけたところで店の扉の開く音が聞こえてきた。
オリヴィアは「いいところで!」と聞こえぬようにぼやき、音のした店の方へと向かった。俺もそんなオリヴィアに続いて席を立ち、店の方へと戻る。
そこには一人の男が立っていた。頭は白髪、短く切りそろえられた髭は清潔感があり、その身だしなみもさることながら、店内を見て回る仕草の一つ一つにその男の性格が感じられた。
「やあ、君が宮代君だね。日本から遠路はるばるよく来てくれた」
俺に気づいた男は口を開く。
この男がマニングやオリヴィアの言う『先生』だろうか。懐疑的かつ警戒心をはらんだ、そんな俺の視線は目の前の男には容易に読み取れたようで、男は笑って続ける。
「そんなに怖がらなくていい。オリヴィアから聞いているだろう?」
「いや、ごめん。それについてはまだ」
男の問いかけにオリヴィアが横から答えた。
「なんだ、そうだったのか。ならまずは自己紹介といこう。私はランドルフ。ランドルフ・アーサーだ。よろしく。カレッジの共同学部で教鞭を取らせてもらっている。気軽に先生でも、アーサーでも呼んでくれ」
丁寧に、静かに、老成された声は語る。
「……さて、出会っていきなりですまないが少し先の話をしよう。君の意志はもうマニングから聞いている。だからこそ、これから君にはカレッジへと入学してもらいたい。コミュニティに所属するだけなら、入学をする必要性は無いが、この先もこの業界でやっていくとなれば通っておいて損は無いだろう。それに、人脈づくりにも学友を得ることは役に立つ」
日本から大西洋、そして次は学校への入学と、転々とする状況に驚きながらも、まあ確かに、と俺は頷きを返す。
「不安なことは多いだろうが、私やオリヴィア、マニングが全力でサポートする。これでも、皆この島じゃ名の知れている連中だからね、何かしらの助けにはなるだろうさ」
そう言って男はオリヴィアの方に目を向けた。
「もう、随分と仲良くなったんだな。私は少し驚いたよ」
「いつまで昔のままだと思ってるの? 当たり前でしょ」
そう言ってオリヴィアは男の横を通って店の表へと姿を消した。
「はは、最近ちょっと反抗期でね。君も多めに見てくれ」
そう言ってアーサーは俺にウインクをしてみせた。
色々あるんだな、というのが正直な感想。目まぐるしく変わっていく状況についていくのが精いっぱいの俺にとっては、多めに見るもなにも関係無い。
何せ、それが初期状態として俺の中にインプットされるのだから。
「さあ、やることは多い。次は諸々の書類を受け取りにこの島の中心までドライブだ。——それはそうと、宮代君」
店を出ようと歩き始めた男はそこで言葉を止め、俺の方を振り向いて続ける。
「ピタゴラス、という名前に聞き覚えはあるかい?」
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