天権を宿す者

 同日 二十一時三十二分

      森から南東に三十六キロメートル地点

 

「おい、これで間に合うんだろうな」

「……間に合わないでしょうね」

 そう答えたのは、黒塗りの車を運転するスーツに身を包んだ男。

 彼は後部座席で足を組み、外を眺める育ちの良さげな少年の、そのぶっきらぼうな質問に対して、丁寧に、そしてたっぷりの皮肉を込めてそう返事をしたのだ。

「はぁ? 俺たちはただでさえ後出しなんだ、そのうえ遅れなんてあったら意味ねえじゃねえかよ」

 さらに投げやりなその言葉に、運転手の男はバックミラー越しに彼を見つめて静かに答える。

「――ええ、そうですね。でも、この遅れ自体は貴方が招いたものでしょう。マニング」

 運転手の言葉はよく研がれたナイフの先端のようにマニングの心を突き刺す。

 マニングと呼ばれた少年はそれに対してぐうの音も出ないようだった。

 事実、この遅れが発生した原因は彼の単独行動であり、今回の任務に失敗した際、追及されるのは間違いなくそこであろう。

「あーあー、分かったよ! 俺のせいだよ! アイツさえ居なければ」

 自棄になり、狭い車内でマニングは声を荒らげた。

「そう怒らないでくださいよ。

 貴方、中身まで子どもにだったんですか」

「……お前! 

 ――はぁ。お前いつものことだけど容赦無いな」

「よく言われます。まあ、貴方の首が飛ぶのは私としても嫌なので、掴まっててください。ちょっと飛ばしますよ」

 そう言って運転手の男はハンドルを握りしめ、アクセルを深く踏み込んだ。

 二人を乗せた車は一気に加速し、見る見るうちに周りの景色を置き去りにしていったのだった。


 

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