森の様子
『魔女の森』。いまや『魔法』の最先端を走っており、ある種の聖地と化していると言われているその村。その村は『魔法』の研究において、リテリア国内中央部の研究機関で大陸最大級の『魔法』研究施設、リテリア国立魔法技術研究所――通称・
魔技研は、術式の単純化や一般化、魔力消費の効率化や魔力暴走の抑止・対策といったように、『魔法』を使いやすく普遍的なモノにすることを主に研究を進めている。術符を用いた現代魔術において『魔法』に馴染みの無い人々でも事故が殆ど無く使用できていることも、公共インフラにおいて特に意識することなく魔力がエネルギーとして供給ができていることも、ひとえに魔技研の努力の
一方、『魔女の森』での研究は個々人が行っているため、使い方を聞いても局所的で専門性の高い『魔法』だったりすることが多い。ただ、魔法士たちが思い思いに研究し、さまざまなアイデアの行き交うこの村では、新たな概念が生まれることもある。ひとつ例をあげるならば、村の守りの要にもなっている結界魔術だ。
基本的な『魔法』のイメージは変換。そして、使い切りの消耗品。体内で最適化された魔力が術式の命令に従い対象へ注入され変化するのが一般的な『魔法』である。それに対し、結界魔術は特定の範囲を常に監視するようなもので、また、一度発動して消えてしまっては使い勝手も悪い。
結界魔術は、手軽に『魔法』を発動させたいという思いから派生して生まれた。
かつては、口頭での様式がかった長い詠唱や大がかりな儀式で『魔法』を使用していた。
それを文字や記号に書き起こして発動できることがわかった。
その術式に条件や分岐を加えることで『魔法』の発動後の挙動が変わった。
今でいう変異材に術式を書き込むことで魔力の流れを制御できるようになった。
そのなかで、術式を書き込んだ変異材を要石として配置することで、長時間遠隔で魔法を発動できる環境を整えることが発見された。定点型魔術、結界魔術のはじまりである。
このような何世代にも渡る研鑽のおかげで『魔法』や術式の知識・技術がたまりにたまっているこの村は、居住する彼らの誇りであった。
だからこそ、侵入者を感知できなかった事実と攫われた子供たちが見つからない現状は彼らの誇りに
特に便利屋組合を案内した村長のパラテは、普段の穏やかそうな様子から一変し感情をあらわにしていた。
「くそっ。子供たちは、村の
いちはやく状況を把握し、村の人々へ的確な指示を出し、いまはそれぞれ行動した者たちからの結果待ちの状態だ。パラテは村のまとめ役を他薦されるだけあって、その手腕は見事なものだった。が、リックやマルタの人攫い騒ぎがあったにもかかわらず、講習会を、よりによって青空教室で開催したのは流石に無警戒過ぎたと自己反省。彼の感情は、まだ落ち着いていなかった。
『魔法』の技術に誇りと自信のある彼らは、言い換えると驕りがあるとも言えた。研究の一環で改良を加えた結界魔術の性能は確かなものだったが、結界魔術を万能としあぐらをかいていたのは事実だ。
村を囲ってあったいまやあまり深くはない堀は外的からの防御の面影は残るものの、場所によっては『魔法』の実験で埋められたままだったり、ゴミ捨て場のように使われたりしていた。村の警備も当番の者が決められたルートを散歩するくらいで、あとは騒ぎになれば駆けつける程度であった。
だからこそ、人攫いが発覚した時の混乱は凄まじいものであった。『魔法』に術式に技術に自身のあるものは特に。
そんな村人たちはパラテが統制を取っているおかげか落ち着きを取り戻し、村周辺へ繰り出し捜索を行っている。
しかし、この捜索はうまく進まなかった。捜索を始めてから、村人たちは思い出したのだ。何故、便利屋組合がこの村へ来たのかを…。
…。
そう、青犬の群れだ。
さらに言うならば、本来巣穴単位でまとまっている青犬の群れは、なぜか散開していた。
うっそうと茂る深い森の中に住む者の経験・知識として、青犬の群れがどこに巣くうかは把握はしている。村人は子供たちの捜索を行っているのだ、文字通り藪をつつく必要はない。しかし、巣穴や狩場を避けても避けても青犬たちが現れる。
「くそっ。囲まれたか?」
「なんで、こんな時に!」
相対したのは戦闘慣れしていないだろう比較的研究優先の村人たちだが、流石は『魔女の森』の魔法士。とっさに風の刃やら水の矢やらを青犬たちに放っていく。あるいは、青犬たちから放たれる風の刃やら水の矢やらを防いでいく。
「数は減ったようだが…」
「あぁ、まだ囲まれているな」
依頼ならちゃんと数を減らせ。と、ここにはいない便利屋に悪態をつきながら、ひとまずは目の前の状況をどうにか片付けようと構える村人たち。そして、この状況は捜索に出ているどの班も同様なのであった。同様に足止めを受けており、子供たちの捜索は思うように進まなかった。
バリィたちがすんなりと青犬の巣穴を潰していたが、それは下準備があり計画と奇襲が成功していたからである。巣穴の位置を確認し、群れの風下に立ち、青犬たちの様子を伺い、一気に制圧する。この作業が一連の流れでできるからこそ、周りの巣穴にも伝播せずにひとつひとつと駆除できていた。そのため、早朝より活動し日がてっぺん近くになるまでは特に問題も起きていなかった。さらに言えば、多少のトラブルがあろうと全体でみればカバーできる程度の進捗であった。
どこかの白髪少女が鬼ごっこを始めた影響は、意外にも森全体に響いていた。
そんな様子を俯瞰でみている『魔女』とポトコル。
「彼女、いい仕事してるね」
「お褒めに預かり…、といいたいところだが、奴は陽動とか考えていないぞ」
「ふっ、力あるものの行動には結果が付いてくるものだよ。さて、そろそろおばば様が動くだろうから、私も仕事をしなくちゃね」
どうやら、また何かをするらしい。
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