澱みと要石


 ――『魔法』、特に現代魔術は誰でも使える技術だ。

 だからこそ、強力な『魔法』を使うチカラより、適当なものを選ぶチカラが大切になってくる。――


 便利屋組合に訪れた時から今に至るまで訓練の際、先輩組員(特にカルディク)から言われているセリフだ。

 さて、こんな誰でも使える技術と言われている『魔法』であるが、魔法適性が低いとされる人もいる。基準は単純、身体を通る魔力の流れの良し悪しで魔力適正は測られる。


 シィタが受けた検査は、体内に入っていく魔力と体外に出ていく魔力を計測し、その数値を差し引きするというわかりやすいものだった。

 ただ、シィタの体外に出ていく魔力が観測できなかった。その事実で、術符に魔力を送れないと判断され、ゆえに「魔力適正無し」と判定を受けた。


 魔力適正が低い者は「無人なきびと」と侮蔑的な呼称を受けるが、まさにシィタは村の者からそう呼ばれていた。年の近い友は親に言われたからと離れ、大人たちからは露骨に悪口を浴びせられた。現代魔術が不自由なく使える町では魔力適正が無くても術符と変異材の流通がある。反対に変異材が流通しておらず『魔法』を使うために技術が必要となる地方では、『魔法』が使えないのはごくつぶし扱いだ。


 そんな扱いを受けてきたからか自信を無くし、自分は『魔法』は使えないものと思ってしまった。思い込んでしまった。

 そんな自信を無くした彼が潰れなかったのは、姉であるリィラと武術の師範の2人が心を支えてくれたからだろう。村のはずれにある小さな道場とそこにいる変わり者が姉弟の憩いの場であり、リィラがみなに対抗するために武術を学ぶ場所でもあった。


 2人で西部まで来たのは、リィラの憧れだけではないだろう。


 だからこそ、周りが敵になった原因である「無人」判定があっさり誤診扱いされると驚きとやるせない気持ちが混ざる。

 そんな過去知る由もないと言わんばかりにおばば様は続ける。


「魔力っていうのはね、この世界の中心から溢れ出ている燃料みたいなもんさ」

「燃料?でも、魔力って直接燃えたりとか飛んで行ったりとかできないんじゃ?」

「お?あんたよくわかってるじゃないか。誰かから教えてもらったんかい?」

「軽く基礎というか入門?をカルディクさんから…」

「カルディクっ!?…珍しいもんだね」


 未だに気圧されそうな3人であったが、おばば様の驚いた表情を見て少し余裕が出てきた。余裕が出てきたからか、自身の考えを整理するために質問をするユート。


「溢れ出ているってどこから溢れているんですか?」

「どこからでもだよ。世界の中心、核は地中深くにあると言われている。核から地中を通り、大地を通り、草木を通り、この目の前に満ち溢れている。私はね。魔力ってのはモノを繋ぐことじゃないか、と思っているんだよ」

「モノを…繋ぐ…」


「そうさ。『魔法』が放たれる過程で、術式に魔力が届くまでに体内で最適化されているのは知っているね?」

「最適化…。あー、カルディクさん風に言うなら、す行程のこと……?」

「ふん、あいつならそういう表現しそうだね。……、人から術式へ。その前を考えると大地や水、草木や大気から人体へ魔力が流れている、そうは思わないかい?」


 おばば様はこう言いたいのだろう。

 核から始まり『魔法』で終わる魔力の流れは、さまざまなモノや要素を数珠つなぎにしている、と。そして、その数珠つなぎが魔力の本質である、と。

 最適化されて次に進み、そこでまた最適化されて次に進む。この変化こそが魔力の特性なのだろう。


 なるほど、さすが『魔女の森』の相談役といったところか。『魔法』の最先端は、魔力の捉え方もまた尖っていた。


『魔法』の造詣は深まった気がするが、ふとシィタがおばば様に尋ねる。


「ま、魔力の見方が変わりました。ありがとうございます。で、でも、これが僕の魔力適正となんの関係が?」


「察しが悪いねぇ。魔力が体内に取り込めるということは――」


 解を出す前に一拍置き、こちら側を試す目線を向けてきたおばば様。

 先ほどの講義での話から、その一拍でユートはひとつの考えに結び付く。


「――世界の核と、繋がっている?」


 にやりと笑うおばば様。


「あぁ、核と繋がってりゃ『魔法』に触れることはできるさ。そもそも、『魔法』が使えない奴は、あんたらの持っている変異材を使っても『魔法』は撃てないよ。変異材は、魔力の最適化を手助けしてくれるもんだからね」

「シィタの身体で最適化される『魔法』があれば、変異材なしでも『魔法』が使えるってこと?」

「ひっひっひっ。おまえさんはほんとに鋭いねぇ。同世代なら口説いてたよ」

「……なっ!?」


 思わず立ち上がるリィラ。さすがに冗談だろう、とそれをなだめるユート。

 それを見て面白がっているおばば様。


「あたしの目と話からすると、坊やに魔法適性は有るさ。なんなら、可能性の塊さね」

「そしたら、この村でいろんな『魔法』使えば!」

「うん!あっ、でもウチの金足りるかなぁ…」


「ひっひっひっ。ここを舐めてもらっちゃ困るねぇ。得意な『魔法』がわかる『魔法』もあるさ。何個も『魔法』使ってたら、身体におりが溜まって疲れが取れないよ」

「…おりが溜まる?」


『魔法』を使うときには聞きなれない単語が出てきたためか、リィラが首をかしげる。助けが欲しくてユートに目線を移したが、ユートはなるほどと自分で納得しただけのようだったので、わき腹をつついて説明を求めた。


「カルディクさんが、すって表現をしたでしょ?それって、『魔法』を使うたびに、最適化されなかった余分な魔力が体内に残って、次のろ過の邪魔をするんじゃないのかな?それで、連続で『魔法』を使うとより体力を使うんだと思う」

「へぇ…、ユートよく思いつくよね」


 おばば様を見るとにやりと笑っている。


 どうやら、ユートがいい筋いっているらしい。





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