いよいよ始まる青犬退治
「シィタはリックのところに泊まるらしいね。迷惑かけてないといいけど…」
「そうですか。では!6人なので、部屋は2人ずつでいけますね!リィラちゃん!一緒の部屋になりましょう!!」
「ひぃ…。ユート!た、たすけ―」
―バタンッ!
らんらんと目を光らせた
戸を閉められる寸前のあの絶望とした顔が脳裏に焼き付く。みな、尊い犠牲を胸に各部屋に散っていった。
リティアとティラが同室になった。
ふたりは容姿からも察せられるが出身は同じ『狩人の森』。
「……ティラ姉さん、やっと落ち着いて話せる」
「ふふっ。依頼の準備で忙しかったからね。村のみんな、元気?」
少しお姉さんなティラが村の子供たちの面倒見役をやっていた。
そんな子供たち内の1人にリティアも混じっていた。
「……ティラ姉さん、ガキンチョどもは元気有り余ってる。でも、奴らに『魔法』を教える人がいない」
「ふふっ。リティ、あなたもまだガキンチョでしょ?……父さんは?」
「勝手に南部土産の焼き菓子食ったことはもう許すって」
「私が食べたことになってるの?あれ食べたのリティアでしょ…」
「……ふふっ」
穏やかな時間を過ごす幼馴染の2人。
『魔法』に興味を持ち、『魔法』を使って何かしたい。
そんな思いから、狩猟を生業とする村を出ることを決意したティラ。
決して、泥臭いことをやりたくないから逃げ出したわけでは…ない、と思う。
リィラとマルチアが同室になった。
ふたりはかわいらしい寝間着に着替え布団に潜りながら話に花を咲かせていた。
「それで?それで?もう口付けは交わしたのですか?」
「…そ、それは、まだ…。ていうか、そんなことまで話すの?」
「んほぉっ!……失礼。照れているリィラちゃんが可愛くて興奮してしまいました」
……会話というよりは、一方的にリィラが話をさせられていた。
なんかビクンビクンしていたマルチアに若干引きながらも、しっかり受け答えしてあげているその姿に性格の明るさや人の良さがにじみ出ている。
「そういえば、マルチアって第三教会だよね?
「う~ん…。そうですね。理由としてはリィラちゃんと同じですかね」
「同じ理由?」
はて?と首をかしげるリィラ。
自身が西部に来た目的は、憧れの白色タグが居るから。
戦闘職で最高位である白色は現在3人しかいない。
リテリア中央に2人、西部に1人だ。
青色ですら英雄と呼ばれ手を焼くのに、さらにその上の生きる伝説が奇しくもリテリア国内集っているのだから、他国は頭を抱えているだろう。
リィラはその生きる伝説の中でも『真紅』と呼ばれている女性を目標に、西部の便利屋組合までやってきた。
リィラが赤を基調とした装備に身を包んでいるのも、『真紅』を意識してのことだろう。
「マルチアも『真紅』様に憧れて?」
「いえ、『真紅』さんを、というよりは…。探し物と言いますか探し人と言いますか…。まぁ、そのような密命がありまして…」
「密命って。言っちゃっていいの?」
「あぅ…。忘れてください…」
ユートとの関係を根掘り葉掘り聞かれしどろもどろになっていたリィラだったが、今度はマルチアが目を回しているようだった。
ここが攻め時、ニヤリと笑ったリィラ。
女子たちの夜は
バリィとユートが同室になった。
「明日はっ!討伐任務っ!だからなっ!今日はっ!しっかりっ!休んでっ!鍛えるぞっ!」
「はいっ!」
ふたりは筋トレしていた。
―――
――
―
翌の朝方。
便利屋組合一行は、森の入り口に集合していた。
森に入る前の打ち合わせで、みな表情は真剣そのものだ。
「3班ほどに分かれて青犬の縄張りの調査を行う予定だったが、」
バリィが浮かない表情になるのも無理はない。
先日、戦闘にまで発展した男たちはペロペロ団と名乗る盗賊団であることが判明している。ペロペロ団は、村や組織に馴染めない者が集まっていき、ならず者の集団へと変わり、組織化していった盗賊団である。詳しい戦力は不明であるがペロペロ団を名乗る構成員はそれなりにいることで知られている。
懸念としては、森にペロペロ団の構成員が潜んでいる可能性が高い点であろう。
「ペロペロ団の件もある。こちらの人数を分散しすぎるのは危険性があがるだろうから、討伐組と護衛組でわかれよう」
話し合いの結果、念のための護衛かつ村人も魔法士が多いことから、新人の3人ユート、リィラ、シィタが残ることになる。新人と言えど、有り余る才を持っている新人らに関しては並みの戦闘であれば問題ないであろうとの判断もあった。
青犬討伐には、仮に村の外でペロペロ団に遭遇しても優位が取れるよう戦闘に慣れた茶色2人と狩猟民族であるリティア、回復や支援でマルチアの4人で向かうこととなった。
そのほか、細かい打ち合わせも終わり、討伐組は森へと入っていく。
「どう?リティ。緊張してる?」
「……ティラ姉さん、緊張はしてない。普段の狩猟とあまり変わらない」
「ふふっ。よかった」
「あの2人本当に姉妹みたいだな。……おっ、青犬の痕跡が増えてきた。巣穴が近いかもな」
「周辺の生き物の気配も増えてきましたね」
バリィはあえて口に出し、緊張を高める。
マルチアも周囲の気配を察知し、戦闘態勢に入る。
いくら野良犬の駆除と言えど、相手は『魔法』を使ってくる生物だ。
油断はならない。
巣穴に近くで、あちらの方が気配が多い。
囲まれているほどの数ではないので、ひとまずはこの集団の討伐から入ることに。
まず、ティラが音や気配が伝わりにくくするため魔力の壁をすばやく展開。
その間に、木に登ったリティアが弓を番える。
バリィ、マルチアが位置についたところで矢を放ち――
「キャインっ!」
――見事、命中。目標は落ちる。
周辺のざっと見、7匹ほどだろうか。
縄張り内であろうからか、青犬たちは逃げることなく周辺に威嚇を始める。
が、狩る側はすでに位置取りを済ませている。
バリィは巨大な斧を振り回し、まさに一刀両断。
ティラは『魔法』で手元に電気の球を発生させ、その球から稲光が青犬に向かっていく。
リティア、マルチアも控えてはいたが、出番もなく狩り終える。
「さて、次の地点へ行こうか」
どうやら、依頼は順調らしい。
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