自覚―
「すまない。村長のところに案内してくれるかな?」
「3番目の曲がり角を右に曲がって――」
リックに案内されながら通る町は、商店街のようだった。
というのも、建物のほとんどが居住・研究所を合わせているつくりとなっており、さらに建物の正面はたばこ屋のような小窓がついている。そのためか、単独世帯であっても2階建てや広い家屋が多い。
「大抵の戦闘職はただの武器のひとつとして『魔法』を使うけど、魔法士はみんな『魔法』が好きで『魔法』を使っているわ。戦闘職よりかは研究者ね」
「みんな自分で『魔法』を書いているよ」
ティラが魔法士は
「あそこの青い屋根の少し大きい家だよ」
そうこうしているうちに、村長の家まで来たようだ。リックが教えてくれた家の前に中年男性が出迎えてるように立っていた。案内しながらリックが伝えてくれていたようだ。出迎えてくれた中年男性は、表情が穏やかで柔和なお父さんといった雰囲気であるが、彼もまた生粋の魔法士のようにうかがえる。外にいるより研究している時間の方が多いのだろう肌に日焼けは見られず、変異材を格納してあるだろう腕輪に術符が詰まっているであろうポーチを装飾している。
「ようこそお越しくださいました。そして、子供たちを守ってくれてありがとう。私はパラテ。この村の村長です」
「この隊の長をしているバリィです。よろしく」
両者、笑顔で握手。
「村長は男性なんですね。『魔女の森』だからてっきり…」
「あぁ、よく言われます。まぁ、村のとりまとめや代表としての役割を任されてます。でも、『魔女の森』らしくおばば様がいますよ」
おばば様は「先読みの魔女」ともいわれる魔法士らしい。
この村の数々の災難を退けてきた猛者でもあったが、今は相談役として落ち着いているらしい。とはいえ、『魔法』の研究は生きがいだからと続けている元気モリモリなおばば様らしい。
「青犬の数減らしの依頼がありまして、ここ近辺で拠点を構えてもいいですか?」
「かまいませんよ。我々も増えた獣に困っておりまして、共同依頼としてこの村に名前を連ねているので内容は把握しております。ささ、宿もありますので、そちらを案内しますね」
『魔女の森』という名前には箔がある。
村人の多くが魔法士で自宅を研究所にしていることから、深い森の中で町からは離れているがこと『魔法』に関してはこの世界の最先端を行っているだろう。実用性の有無は別として。
そんな最先端の技術を見たり購入したりする人が訪れるため、そういった人々を狙った商店もある。商人もやってくるため、町に流通している通貨で数日滞在することは問題なくできる。
村長は続ける。
「それなりに商人も行き来するので、裕福、とまではいきませんが、余裕はあります。その余裕で、子供たちに『魔法』を教えているのです。自分たちの使っている技術を還元している、ということです」
「へぇ~。立派ですね」
そんなこんなで宿に到着。こぢんまりな印象で足を踏み入れたが、意外とある奥行きで驚く。どうやら『魔法』で外見の認知を少しずらしているのだとか。とはいえ、これでほっと一息。
空き部屋に余裕があるようで、2~3人用の部屋を3部屋確保できた。
「先輩方でおっぱじめても気にしないんで」と笑顔で言ったユートが、バリィに外へ引っ張り出されティラの『魔法』で制裁を受けたのはご愛敬。
日も傾いてきたため、明日から青犬討伐を始めることとし各自空き時間ができた。
自由時間になった途端に、リティアは油麺の店があったと脱兎の如く飛び出していった。シィタはリックとマルタと仲良くなったようで、夕飯をお呼ばれするらしく彼らの家に向かっていった。
ユートは、暇を持て余して村をぶらり。ちょうどいい空き地があったので、鍛錬でもするか。と素振りを始めた。雑念を消し、無心で。己を高めることだけに集中する。
「ユートさ。その、大丈夫かい?」
普段より集中できないことにストレスを感じ始めたあたりで、背後から声がかかる。ユートを心配する表情で物陰から現れたリィラ。
「明日が初めての討伐依頼だろ?さすがにちょっと緊張してる」
「そうじゃなくて、さ。手、震えてたでしょ?」
「……っ」
笑っておちゃらけて返したユートだったが、振り返ったその先に真剣な表情でまっすぐ見つめてくるリィラがいて気圧される。振り上げていた木刀はがらんと落ちる。自分の手を見つめるユート。その手は、小刻みに震えている。
「……。初めて、ヒトを撃った」
「うん」
「殺すための弾じゃない。でも、ヒトに。生き物に向けて、初めて撃った」
「うん」
「便利屋の試験の前に言われて覚悟した…つもりになってた…」
「うん」
「訓練の時は的に当たって喜んだけど、今日なんて……当たらないでくれなんて思ってた」
「うん」
「今でも震えているのに…命を奪う時が来たら…怖い…」
「……。ユート、」
リィラは震えているユートの手を優しく、でも力強く握る。この手を離さない。そんな意思を伝えるかのように。
「うちもその怖さは知ってる。村の畑を荒らした大猪を訓練がてら退治した時があったんだ」
「…うん」
「暴れる大猪を倒して、とどめの時にさ。目が合った…気がした」
「…うん」
「命を奪う感覚って重いよね。でも、うちは夕飯食ったら何とかなった!」
「夕飯?」
「うん。その夜、猪がふるまわれてさ。豪華だったけど、落ち込んだから食欲わかないわけよ。そしたら、親が責任もって食えって言うもんだから食べた。そしたらさ、めっちゃ美味しかった」
「ははっ!おいしい料理で元気が出たの?」
「ち、違うよ?食べる大変さを知って心の整理がついたの!」
食べ物につられる単純乙女じゃないよ!と必死に否定するリィラ。
空元気ではない笑顔がこぼれるユート。その表情を見て握っている手を引き寄せるリィラ。必然とお互いの顔が近くなる。
「今からずるいこと言うね?」
「お、おう?」
「うちはユートが好き。大好き。大好きな人に怪我してほしくない。だから、こんな我が儘なうちのせいにして自分の身を守ってほしいの」
誰かのせいにすれば、心は軽くなる。これは痛みに向き合ってはいない行為だ。
「……。俺って情けないなぁ。いや、」
「うん?」
「こういう時はありがとう!って言うんだよな」
「うん!」
「そして!いつか、いつの日か君を。リィラを守るために戦えるようになるよ」
今は、今だけは、甘える。だが、いつまでもこの重さを預けるなんて男が廃るさ。
今回の任務にひとつ。大きな目標ができたユートであった。
「…どうして、リィラはそんなに優しいの?」
「ユ、ユートに…目惚れしたんだよぉ。言わせんなバカぁ」
普段の勝気なリィラがふにゃふにゃ照れてる様子は可愛かった。
「ぐふぅっ」
どうやら、何者かに覗かれていたらしい。
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