目的地周辺です
バリィと軽薄そうな男の実力は伯仲していた。
まさに、剛と柔の体現と言える戦いであった。
片や巨大な両刃斧を振り回し、片や暗器を用いて急所を狙う。
片や巨大な武器を盾にもして暗器を防ぎ、片や身軽な動きで斧の嵐の隙間を避けていく。
だが、その均衡は崩れる。
「ユート!拘束を!」
「はいっ!――【縄よ】【捕らえよ】【罪人を】」
ティラの呼びかけにすばやく馬車から飛び出し、緊縛術式で男2人を捕縛するユート。ティラの『魔法』で行動制限がかかっているおかげか、ユートが放った『魔法』はすんなりと男たちを縛り上げている。
この緊縛術式は先日の武器屋で購入した術符で、効果も折り紙つきである。その効果は、詠唱後手元の術符が縄に変わるや否や蛇のように飛んでいき、それはきつくきつく対象に絡みつく。無理に解こうとするとさらに食い込むためか、男たちは苦しそうな声をあげている。
仲間が捕らえられる様子を見て、軽薄そうな男は状況不利を悟る。
「ひひっ。有利かと思ってたが、馬車にも人が乗っていたか…。こりゃ逃げるしかないかね?」
「仲間を置いてか?」
「護衛や救出の方がぁ、討伐より難しいってのは…。茶色の君ならわかるだろう?不利な状況ならなおさらってね」
「逃がしはしない。お前にも吐いてもらうんだからな」
賊は討伐対象だ。国から賊として手配された者には懸賞金がかけられ、生死を問わず首を差し出せば換金できるケースもある。魔石版で情報共有もできるため、捕らえた者をすぐに照合することもできる。
ただ、今回の連中は人攫いに手を出しているようなので、組織的に動いていると思われる。便利屋組合としても撲滅を図りたい。もし、名のある犯罪集団であれば、治安維持もできるし懸賞金もかかっているので案件的にはおいしい相手だ。
すでに子供たちは馬車に乗っている。あとはこの人攫いたちを捕らえて無力化するだけだ。とはいえ、この軽薄そうな男はなかなか手強かった。
軽薄そうな男は、バリィと絶妙な距離感を保ちながら立ち回る。そのせいもあり、ティラとユートは効果的に『魔法』を使えない…。
ただただ逃げ出す素振りを見せれば、それこそ魔法士の格好の的になることを理解していてのことだろう。
ただ、誤算があったとすれば――
カツン…
と撃鉄の落ちる音がした直後、軽薄そうな男は先の2人同様に緊縛魔法によって拘束されていた。急に拘束されたことに動揺が隠せない男はそのままバリィに組み伏せられる。意識を手放す直前、彼が目にしたのは銃を構えるユートの姿。
「ひひっ。さすがに、銃は予想外だぜぇ」
――催眠を導入する『祝福』。
拘束された男たち眠りについたことで完全に無力化された。
保護された子供たちも落ち着き男3人が拘束されたことで、マルチアが馬車から降りてきて『祝福』を唱えていた。
人体に直接影響を与えることができない『魔法』に対し、『祝福』は今回の催眠のほか回復力を高めたりなどを行うことができた。
かくして、偶発的に発生した戦闘は終息した。
リテリア国内の戦闘職の者は、主に3つの組織のいずれかに属している。
ユートの属する一般から公的な依頼を幅広く受ける「便利屋組合」。
リテリア国軍での治安維持の要であり捜査機関でもある「リテリア憲兵団」。
教会に信仰と忠誠を誓い教皇から称号と拝命を受ける「教会騎士」。
この3勢力、組織的に仲が悪い。三つ巴的に。
便利屋組合は憲兵団を権力の犬でお堅い連中と思っているし、
憲兵団は騎士を派手な装飾で目立ちたがり集団と思っているし、
騎士は便利屋組合を忠義が無くて欲深い輩と思っている。
そのほか、私兵団や個人で活動しているものも少数ではあるがいる。
さて、捕らえた者の身柄をどうするかとの悩みどころではある。
国の機関である憲兵団に引き渡すとして、この『魔女の森』付近の森や平原は西部の町から少し離れており北部の憲兵団詰所の方が近い。
早く引き渡しをしたいが、西部と北部で管轄が違うとか、犯罪者確保の協力金が出ないとか、もろもろの問題がないかと気になった一行はひとまず魔石版で便利屋組合の受付に確認してみることに。問題ないうえに連携もしてくれるとのことで、憲兵団到着までしばし待つこととなる。
「それなら、少し休憩してますね」
「あぁ、承知した。ユートたちも馬車で休んでていいぞ」
『祝福』も無限に使える奇跡ではない。それなりの代償はあると
―――
――
―
「――それでは身柄はこちらで預かります。ご協力ありがとうございました。ほかに何か情報などは?」
「すみません…。聞く間もなく戦闘が始まったので、特には…」
「いえいえ。要請を受けた情報やこの人相などから、こやつらは近辺で有名なペロペロ団だと思われます。組織人数はそれなりにいて下部組織もいくつかあるのでお気をつけて。それでは失礼します」
北部の憲兵団員たちは護送用の堅牢な馬車に3人をせっせと詰めて帰っていった。
ひとつひとつの動きが効率よく機敏でさらにビシッと決まっている敬礼から彼らの練度が高いことがわかる。周辺国からすれば超が付くほどの大国リテリアは、軍事…というよりか組織のひとつでも脅威になるであろう。
聞き取りと場の責任者のサインを済ませたバリィもひと息つく。
「それじゃ、行きますか。この子たちの村へ」
「バリィ先輩、この子たちの村って…。わかるんですか?」
「ここに入れ墨があるだろう?村の風習なんだ」
バリィが自分の額を指差し説明してくれているが、もったいぶっているようにも聞こえじれじれするユート。
「あ~、でも詳しい場所まではわからんな」
「助けてくれたお礼に、案内するよ」
もったいぶる割には頼りにならないバリィだが、リックが案内してくれるとのこと。
日はまだ照っているが、薄暗い森を走る。
途中途中で小さな祠のようなものが見える。祠の前を通るとリックやマルタの手元にある術式の書かれた木板がポワッと少し発光する。
どうやら、木板が鍵となっていて探知魔術や結界魔術を抜けることができるらしい。
木板がないとこんなまっすぐな道でも感覚が狂い迷うようだ。
何回か祠を通り過ぎると、薄暗さが抜け―
「ここが『魔女の森』かぁ。森か?」
「たしかに、森って名前の割に街並みがしっかりしてるよね」
―森が開けると、周りを見てユートは困惑しリィラが同意する。
目の前に広がるは、きれいに整備された道路がまっすぐ町の入り口へまで伸びており周辺もしっかりと開墾されている光景だ。
街道を通りひとつの大きな町についた感覚にはなるが、ここはリテリア北部山脈に連なる麓の深い深い森の中であることは間違いない。
どうやら、目的地についたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます