武器との出会い


「…みんな、武器屋行くよ」


 食事を終え、次の目的地へ歩き始めるリティア。

 4人は並盛を注文したのだが満足感どころか見事撃沈し、いまはリティアの後ろをゾンビのように歩く。

 味はおいしかったが、みなこんなところに2度と来るかと静かな誓いを立てていた。後日、戦闘職の新人5人組がちょくちょくこの店に来るのは、また、別のお話……。


 それにしても軽快に進んでいくリティア。


「リティアは小柄なのに、なんであんなに動けるんだ…」


「あぁ、神よ。小盛りを頼まなかった私をオユルシクダサイ…」


「こりゃ夕飯はいらないかもね」


「…、うぷっ」


 やっと食べ終わりそうといった頃に、そんなに苦しいなら小盛りもあるよ。とリティアが後出しをしてきた時には、みんなして先に言ってくれとツッコミを入れたかった。入れたかったが、戦闘は続いていたため気を緩めることができなかったのだ。

 今、こうして精いっぱいの恨めしい目線を送るのがやっとの抗議であった。

 

 ふと、リティアの足が止まる。


「……みんな、ここは品揃えがいい。狩猟の道具とかここで揃えていた」


 食後の運動も兼ねた移動でお腹もこなれてきたころ、ちょうど目的地へ到着する。

 目の前には、武器屋の看板が立っている巨大な倉庫。

 首が痛くなるほど見上げるその大きさに、異世界ファンタジーの工房一体の個人武器屋を想像していたユートはその広さにしばらく呆けてしまった。


「すご。思ってたより広いな。ショーケースとかもめっちゃ多い!」

「……ユート、まずはどんな武器があるか見て回ろう。気に入ったのあれば使って、使い慣れたら注文品を工房で作ってもらえばいい」

「確かに…。こんなにいろいろな道具があるんだもんな…。みんな、ちょっと付き合ってもらってもいいかな」

「もちろん!うちらも何か助言できるかも知らないしね」


 ひとまずはユートのお気に入り探しの時間となった一行。


「無難に剣とかいかがでしょうか?」


「……ユート、主力ではなく護衛用として短剣はどう?」


「うちと同じ棍はどうだい?棒術も楽しいよ?」


「ま、魔力適正が高いので、盾で守りながら『魔法』を使うのは…どうでしょう?」


 みんなのアドバイスを受けながら、いろいろな武器を廻っていく。

 ショーケースの展示品を見たりサンプル品を手に取ったりして、リティアやリィラは自分の使っている武器の良し悪しを教えてくれた。

 マルチアやシィタも武器選びに慣れないながらも親身にアドバイスをくれた。


 しかし、それらを構えて戦っているイメージができずに悩むユート。

 ユートの武器選びが行き詰まり始めたところに、店員が声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。何かお手伝いは必要ですか?」

「武器を探しているんですけど、しっくりくるものが無くて…」

「彼、戦闘経験があまり無いけど、でも魔力適正がすごく高くて。そんな人向けでおすすめはありますか?」


 少し考えてから、こちらへどうぞと案内してくれる店員。

 どんな武器を案内してくれるんだろうと胸を期待に膨らませ、前を向いている一行。

 決して、彼って言っちゃった。と少し照れてるリィラの後ろにいるマルチアの表情を見たくないから前を向いているわけではない…はず。


 店員が案内してくれた場所は、銃のコーナーだった。

 大まかに『魔法』を推進力として実弾を放つ銃と『魔法』の弾を放つ銃に分かれていた。また、銃弾に関しても術式が刻まれており、その場面場面でより効果的な選択が取れるようになっているのだろう。


「術符のご使用経験はありますか?」

「はい。それなら問題なく使えました」

「多くの術符は、言葉を発動条件にしていることが多いですが、銃はまさしく引き金が発動条件になっております」

「へぇ、便利だね。でも、町で銃を持っている人をあまり見かけなかったんですけど…」

「あぁ、それはですね」


 店員曰く、購入者のほとんどは主力ではなく補助的に持つ目的が多いらしい。さらに、消耗品の補充で銃弾は言わずもがな、『魔法』を使用するため変異材も必要となってくる。変異材を含んでいる銃弾もあるようだが、少々値を張る。ということで銃は不人気の部類のようだ。


「そうか!魔力適正が高くて変異材の消費が少ないほど、魔法銃の恩恵を受けやすくなるのか」

「さようでございます。変異材の消費が少なければ、その分を別の術式が刻印されている弾薬に充てることもできます。持ち運びにしても同様です」


 それにしても、とシィタ。


「ふ、不人気なのにこんなに、種類あるんですね」

「北部に銃が伝わった際、これぞ職人の腕の見せ所と多くの工房が製造したようでして、その名残で今でも北部では銃の開発など進めているようですね。他の武器種の質が悪いという話ではないのですが、銃の生産はほぼ北部なので種類も多いですが高品質でございます」

「た、確かにいろんなところで、銃売ってました…」


 ユートの銃の馴染みは、祭りの屋台の景品にあったモデルガンが欲しかった思い出やシューティングゲームで強い武器の名前を覚えた記憶くらいだ。


 ただ、なんとなくだった。ふと目線の先にあったのは回転式拳銃。ドラマやアニメで、主人公やら警察官やら味方が使うイメージ。あいまいな記憶の中でも正義の象徴のイメージはしっかりとできた。そして、それで自分が魔法を放つ姿も目に浮かんできた。運命の出会いとはよく言ったもので、目の前の銃にくぎ付けになっていた。


「俺、これにします」


 どうやら、相棒が決まったらしい。


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