第2話 異能者

辺りはすっかり夜になり、私達のいる路地裏には一切の光が届いていない。

「そ、そういえば私迷子だった……」

「ミャーオ。ミャンミャーン。」

〘ふむ。安心するがいい。我が道を覚えている。ついてこい。〙

サラマンダーさんはそう言うと、道を案内しだした。

私は彼女の指示通りに歩くことにした。

「ミャーン。ミャミャミャア。」

「わかったよ。ありがとう。」

「ミャア。」

今はこうして私に協力的だが、このサラマンダーとかいう奴も怪異だ。怪異は人間の敵だ。絶対なや仲良くはできない。それに、こいつはシロネのこと傷つけた。私はまだ許していない。


「あの……まだ路地裏から出ないんですか?」

〘出ないんじゃない、出れないんだ。我もこんな場所しらん。道を教えてやるとは言ったが道を知っているとは一言も言ってはないぞ!ガハハハ!〙

「このヤロ……!」

「ニャー!」

私は怒りを抑えながらも、絶対にコイツとは仲良くできないことを確信する。



「動くな」



突然男の声が聞こえてくる。

振り返るとそこには四人のスーツを着た人たちがいた。

一人は金髪のサラサラヘアーで、前髪をセンターパートで分けているチャラい男。

隣の女は身長が高く、眼鏡をかけていて、いかにも仕事ができそうなキャリアウーマンといった風貌だ。

さらに、その後ろには背の低い少女のような少年が立っていて、最後尾には毛むくじゃらの大男が立っていた。


「えっと……あなた達は一体誰ですか?」

私が尋ねると、先頭にいたチャラい男は、ヘラヘラしながら答えた。

「俺達は怪異を狩る異能局の人間だぜェ〜。よろしくな!嬢ちゃん!」

「怪異を……狩る?」

「そうさ。人間に害をなす怪異をブッ殺すお仕事だ。さっきこの路地裏で焼け焦げた土蜘蛛の死骸を発見した。あれは嬢ちゃんがやったのかァ〜?」

男は軽い感じで私に訪ねてくる。

〘こいつらはヤバい……。異能者は我ら怪異の敵だ。いいか、絶対に我の存在をバラすなよ、処分されるぞ!〙

サラマンダーが私の脳内に直接話しかけてきた。

「わ、わたしがやりましたけど……」

「やっぱりか〜!すげぇな!お前!どうやって倒したんだよォ〜?教えてくれよォ〜!俺達にも倒せるかなァ〜?どう思う?お前ら!」

「………」

「……うス。」

チャラ男の問いに対して、3人は無視を続けていた。

「ま、まァそんなことはどうでもいいんだ。嬢ちゃん、もしかすると異能の力を持った人間じゃあないか?その紅い左目、オッドアイは異能者の証なんだぜ?」

「え……!?」

私は慌てて左目を手で覆った。

(これはサラマンダーの左目……。なんか勘違いをされてるっぽい。でも、サラマンダーのことは言えない……)

「ふぅん……動揺してるって事は図星っぽいねェ……。」

「……」

「俺達は異能者をスカウトしたいんだ。それに、強力な異能者を街に放り出す訳にもいかねェ。嬢ちゃん、一回俺達と来てもらうぜェ〜」

「嫌です!!」

「ハハハ!即答かよ!ますます気に入ったぜェ〜!それなら力づくだなッ!!"お菊"!」

チャラ男が呟いた瞬間、チャラ男の影から日本人形のような怪異が姿を現した。

チャラ男の隣にいた長身の女は呆れたような顔をしながら後ろに下がった。

〘ヤバい!さっきの戦闘で炎を出し過ぎたせいで、あと一時間は炎が出せないぞ!どうしよう!ヤバァ〜〜い!〙

頭の中でサラマンダーが騒いでいる。

「"お菊"」

〘はい。ご主人様。〙

「あの女の子を捕まえろ。傷はつけるなよ。」

〘かしこまりました。〙

「ま、待ってください!私、異能なんて持ってません!普通の人間ですよ!」

「じゃあ俺達の事務所で確かめに行こうぜェ!お菊"拘束"」

日本人形の髪の毛が伸び、私の身体を拘束した。

「きゃっ!?」

「悪いなァ〜。大人しく捕まってもらうぜェ……」

「シロネ!逃げて!」

私はシロネに向かって叫んだ。

シロネはビクッとして動けなくなっている。

「ミャーン……」

「シロネ!」

「安心しろよォ〜。猫も一緒に連れて行くからさァ〜」

チャラ男がヘラヘラ笑っていると、長身の女がこっちに向かってきて、チャラ男の頭を叩いた後、私の項を叩いてきた。私はそのまま意識を失った。



***


目が覚めると、私は明るい部屋の中に居た。

隣ではシロネも寝ている。

「ここは……?」

「起きたかい?」

声が聞こえたので振り向くと、そこには先程のチャラ男がいた。

「あなたは……!」

「俺は一条太陽。この異能局で異能者の育成をしているんだ。よろしくな!」

「は、はい……。よろしくお願いします……」

「アンタが変な方法で異能者保護をするから、この子が怖がってるじゃない。どうすんのよ……」

先程の長身の女だ。

「おい、水上。口を挟むんじゃねェ。俺は女の子に傷つけたく無ェだけだ。拘束だけすんなら俺のお菊が一番だ。」

「はいはい。そうですね。」

「チッ、つまんねぇ奴だなァ……全く……あーあ、折角可愛い子を見つけたと思ったのになァ〜。なァ?嬢ちゃん。」

「は、はい……」

「それで、君の名前は?」

「えっと……黒江美鈴……です。」

「へェ〜。美鈴ちゃんかァ〜。かわいい名前だねェ〜。ところでさァ〜、美鈴ちゃんって今いくつ?」

「16歳ですけど……」

「ハァ〜。そっかァ〜。俺の3個下か〜。じゃあさァ〜、俺の彼女になんない?俺のタイプなんだよォ〜。俺の彼女になれば、こんなところすぐ出られるし、毎日美味しいご飯だって食べさせてあげるよォ〜」

「お断りします!」

「即答かよォ〜」

「こいつは極度の女好きなの。あんまり気にしない方がいいよ。」

長身の女が私に囁いた。

「そうなんですか……」

「まあ今日はもう遅いから、ゆっくり休んでくれよなァ〜。明日また迎えに来るからさァ〜。じゃあなァ、美鈴ちゃん。」

そう言ってチャラ男は出て行った。

「大丈夫?美鈴ちゃん?」

「はい……。ありがとうございます。」

「私は水上美柑。よろしく。」

「わ、私は黒江美鈴です……。よろしくお願いします……」

「ふふっ。さっきも聞いたよ。」

「あ……すいません……」

「別にいいよ。それより、明日に備えて早く休みな。」

「はい……。わかりました。」

「私は隣の部屋にいるわ。何かあったらすぐに呼んでね。」

「ありがとうございます。」


私はそのまま布団に入り、シロネを抱きしめる。

「私達、これからどうなるんだろうね……」

〘我はこれから人間共を支配する!人間は我を恐れ、我にひれ伏し……〙

「アンタには話しかけてない。シロネ、ごめんね。」

私はシロネを撫でる。

私の身体の半分はサラマンダーなんだ。その事実に改めてゾッとする。私は怪異が嫌いだ。なのに今は私自身が怪異になってしまったのだ。どうすれば人間に戻れるのか、皆目見当もつかない。

(でも、もし私が怪異になった事で、誰かが救えるなら、それもいいかもしれない。)

そんな事を考えながら、眠りについた。



***


翌朝、目を覚ますと、部屋の中には水上さんとチャラ男が居た。

「おはよう!美鈴ちゃん!」

「おはよ。」

「お、おはようございます……」

「支部長が君に会いたがってるんだ。ついてきてくれないかな?」

「は、はい……」

私は立ち上がり、2人について行く。


「美鈴ちゃんは昔から異能を持ってたのかい?」

「いえ、昨日発現しました。」

「へェ〜。どんな能力だい?」

「炎を操る異能です。」

「炎を操れるのかァ〜。凄いなァ〜。俺にも炎出せるかい?」

「出せません……。自分じゃまだ上手く制御できなくて……」

「最初から異能を使いこなせる人なんていないから大丈夫だよ」

「お、お二人も異能を持ってるんでしょうか……?」

「俺は異能なんか持ってねェぜ?コイツも異能は持ってないが、強いぜ?」

「今どきは異能を持った人間なんてほとんどいないのよ。この事務所にも異能を持った異能者は3人しかいない……。怪異の存在を民間に明かさないようにするために怪異対策局のことを異能局と呼称する決まりになっているの。」

「そうなんですか……。知らなかった……」

「だからこの施設の正式名称も"怪異対策局埼玉支部"だ。」

「へェ〜。そうだったんですね……」

「着いたよ。この先に支部長がいるの。」

大きな扉の前についた。


「失礼します。連れてきました。」

「入りなさい。」

中に入るとそこには1人の男性が座っていた。

男性はかなり年配のようで、茶色のコートを羽織り、丸眼鏡の奥からは右目が緑色で左目が赤色というオッドアイが見えていた。

「やあ。君が黒江美鈴くんでっか?」

「はい……」

「君のことは聞いとるで」

「は、はぁ……」

「単刀直入に言うと、君にはこの異能局の一員として怪異と戦ってほしいんだ。もちろん給料も出すし、衣食住も提供する。どうだ?悪い条件じゃないと思うんやけど?」

「わ、私には無理です……!戦うなんて……怖いです……!」

「安心してええよ。ウチの組織は戦闘訓練とかはしぃひんから。それに、もし戦えなくても、ここで事務員として働いてくれてもええよ。」

「そ、それでも嫌です……」

「そらかなんなあ……。最近は異能を持った人間がめっちゃ珍しくなっとる。異能を持った人間を狙う怪異も増えとるし、犯罪に巻き込まれる可能性も高い。それに炎を操る異能は強力やさかいなあ……」

「お言葉ですが、支部長。彼女はとても怯えています。そんな状態で怪異と戦うなど不可能でしょう。」

水上さんが言った。

「水上さんの言う通りです。私は戦いたくありません……」

「困ったのう……」

怪異とかとはできるだけ関わりたくないのに、怪異と戦うなんて絶対嫌だ。でも、この人たちと一緒にいれば私の中の怪異を、サラマンダーを退治する方法も見つかるかもしれない。

「私、決めました……!」

「お、そうかい。決心してくれて嬉しいわあ」

「私、ここで働きます……!」

「え!?」

「おォ!マジか!ありがてぇ!これでやっと人員確保できるわ!助かるぜェ!よろしくな!美鈴ちゃん!」

「よろしくね。」

「よろしくお願いします……!私、頑張ります……!皆さんの役に立てるように……!」

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