エピローグ
「お疲れ様。演説、すごくかっこよかったよ」
「そう? 別に、私としてはいつも通り淡々と話しただけよ」
そう言うと、海野は何てことないといった様子で、俺の座るソファーへと腰掛ける。今日は朝方に海外出張から帰国し、そのままの足で結党記念式典に参列、正午頃まで式典後のパレードを観覧した後、これから社内で経営会議というかなりのハードスケジュールだが、疲れた素振りの一つさえ見せないとは流石の一言だ。
「でも、週末は別荘でデートだと思うと、俄然力が入ったのは事実ね」
「そう言われると、照れるな」
時が経つのは早いもので、海野と正式に交際を始めてから既に二か月が経過した。俺は正式に補佐官へと就任し、海野は経営基盤を安定させたうえで、六月の党大会より国共党の最高評議会常務委員に就任。クリエイターとしての活動も再開しており、来週には電撃引退により打ち切りとなっていた漫画の連載も再開するという。
「結局、特別報酬の十億円は受け取らなかったのね」
「ああ。君と交際を始めたら、何というかどうでもよくなっちゃったんだ。正直、沙輝と一緒にいられるなら、それ以上は何も望まない」
「それにしても、本当にごめんなさい。彼女なのに、全然一緒に遊んであげられなくて」
「別に構わんよ。だいたい、社長が毎週遊んでいたら、それこそおかしな話だろ。特に君の場合は、現役JK社長兼クリエイターという三足の草鞋なんだから、気に病むことはない」
「それは、確かにそうだけど……でも、私も何だかんだ春斗と遊べなくて、悶々としているのよ。第一、私たち外では一切話せないでしょ」
そう言うと、海野は少しばかり身体を寄せてくる。
「まあ、俺たちの関係は公には秘密だからな。俺自身、身バレ防止のため表舞台に立つことは一切できないし、沙輝も部下と付き合っていることが社内外にバレると、何かと困るだろう」
「ええ。もちろんわかっているわよ。でも、だからこそ、こうして社長室で二人きりの時くらいは、イチャイチャしたいなって、思うわけ」
そう言うと、海野はさらに身体を寄せてくる。
実際、俺たちがプライベートで話したり、こういう風にカップルらしいことができたりするのは、社長室と別荘の中だけ。交際を秘密にしている以上、外泊や自宅への訪問はできないし、学校でも同級生として最低限のコミュニケーションにとどめている。別荘で会う際も、社内向けにはあくまで仕事の打ち合わせのためと伝えてあるので、長期間の滞在は不可能となっているのが実情だ。
「……色々不都合はあるけど、それでも私、幸せよ。前はずっと一人ぼっちだったけど、今は仕事でもプライベートでも、あなたという最高のパートナーが傍にいる。それだけで毎日が楽しくなった。こうして二人きりでいる時間も、一緒に仕事をしている時間も、全てが至福のひと時なの」
「ああ、俺も全く同じだ」
そう言うと、俺は彼女をそっと抱き寄せる。
そんなこんなで二人きりの時間を過ごすこと約十分、午後二時半を回ったところで、正面からノックの音がした。
「そろそろ、事前の打ち合わせの時間ね」
「ああ」
「沙輝ちゃん、今大丈夫?」
「ええと、ちょっと待ってて」
海野は半開きのドアの方へと向き直ると、ゆっくりとソファーから立ち上がる。
「さ、切り替えないとね」
彼女はポンポンと俺の肩を叩くと、勢いよくドアへと駆け寄っていった。
一億総オタク社会の現役JK社長 荒浜ルビオ @arahama_rubio
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