第31話
「痛くない?」
「……うん」
これは
まだ何もしてないから。そんな簡単に痛くならないから……
「しんどくない?」
「……大丈夫」
これは
動いてませんから。ただ座って待っているだけです。
「おいしい?」
「……うん、おいしい…です」
これは
彼の指した“おいしい?”の主はこの目の前にあるショートケーキ。何だか美味しいと噂のケーキ屋さんで買ってきたようで、1ピースがデカイ。
「「「良かった~」」」
3人がやっと各々座って食べ始める。
「ねえ、なんなの?ここは私の家だから、私が準備しますから!」
「だめです。もう聞きません」
なんですと……尚惟くん?
「そうだよな~、鵜呑みにしてたら、色々と頑張りすぎる人がいるので」
はい?輝礼くん?
「二美子さんもさあ……いい加減俺たちに甘えるってこと、覚えてほしいんだけど」
なんと……!壽生くん?
3人して“だよな~”何てことを言いながら、美味しそうにチョコケーキ、ブルーベリータルト、抹茶シフォンケーキをそれぞれが頬張る。
声が戻ってきた日は、ちょっと疲れちゃったので、快気祝いは今日まで延期された。裕太兄の一言で…。
その上、
今日は、3人ともひと足早く訪ねてきてくれた。ケーキを持って。
「……やっぱり怒っているのね?」
私の言葉に3人はぴくりと反応した。
「え?怒るようなことしたの?」
だから、壽生くん、怖いって。笑顔で詰めないでよ……
「そうではないけどね。3人とも怒ってるのかな~って思って」
私はイチゴをフォークでつつきながら口ごもった。
「怒ってるとして、二美子さんは俺たちがどーして怒ってると思うの?」
尚惟……そういう質問の仕方は好きくないです。
「まあ…例えば…声がでなくなったことを伝えなかったとか?」
ショートケーキはおいしそうなのに、一向に2口目が進まない私。
「なるほどね。声がでなくなる前に、衝撃的な出来事で傷ついたとかってやつ?」
……わあ…輝麗くん、怒ってるー…
「だってっ……」
「だって?」
うー……負けるな私っ!
「だって!自分でも良くわからなかったんだもの。立て続けにいろんな情報が入ってきて、ほんとかどうかもそうだけど、何かどっかで引っ掛かってる感じもあって、で、後からどんどん思い出してきて……」
3人がじっとこっちを見てることに気付く。
「……えっと」
こういうことを言っていいものなのだろうか……。
言葉に詰まった私に、言葉を復唱して促す尚惟。
「思い出してきて……?」
「……怖かったん……だよね。また嫌われるかもって…」
要らないって思われるのは、もう嫌だったんだよね……
3人の言葉が止まってるのが、ちょっと怖い。なんていわれるんだろう。顔を見ることができない。
ちょっと間があって、カチャリとフォークを置く音がした。
「あのねー、そんなわけないでしょう?」
と壽生。
「そうだよ。モノのやり取りじゃあるまいし、二美子さんは二美子さんでしょうが」
と輝礼。
「嫌いになんかならないよ」
と尚惟。
チラリと顔を上げると、笑顔の3人がいた。
「…………うん、わかった」
私にはもったいない友だちだ。
ありがとう…ちょっと元気になれる。ちょっと?いや……すごく元気をもらえる。3人の笑顔が見える。私は彼らと同じ空間にいる。その現実があったかすぎて…
「ありがと」
「おい、尊!」
署の廊下で声をかけられる。
「裕太、早いな」
「今日は流れてた快気祝いだろ?早く帰るよ、二美子が待ってる」
「お前ねえ…、頭の上に音符が見える」
「え、かわいい?」
「……はいはい」
それでも、俺もちょっと浮き足立ってたからわからなくもない。妹との時間を取り返している感じがして、毎日が新鮮だ。
俺たちの気持ちにも少し変化があった。
父に会いに行った。行ったといっても、出没していた公園へ二人で行ったのだが。
そこで、二美子は心臓の病でドナーになれないこと、俺たちはドナー登録を既にしていること、連絡があれば、誰がどうということはなく指示に従うだけであること、もう二度と来ないでほしいことを伝えた。
俺にも裕太にも、恨みがない…とは言えないが、もう、父の存在はどうでもよかった。未練も期待もなかった。もう、こっちに交わって来なければそれでよかった。その釘だけ指して、二度と探さないでほしいとお願いをして、別れた。
二美子には話してはいないが、察していると思う。もう心配しなくていい、と伝えただけだが。この事はもう、これで終わりだ。
「さて……二美をねらって3人がくるよな」
「そうだよなー、ここまで遠ざけてたから、きっと、めっちゃ気合いはいってるな……」
「先輩たち、甘いですよ」
この声は……
振り返ると光麗がいた。
「裕太、お前の後輩、最近、距離が近い」
「あー、……だな」
光麗はわざわざ俺と裕太の間に割り込んできて、大きなため息をつく。
「はあー……。全く平和ボケですか?幸せボケですか?相手は大学生ですよ?時間たっぷり系ですよ?!シスコンパワーはどうしたんですか!しっかりしてくださいよ」
そういうと、スマホの写真を俺たちに見せた。そこには二美子と3人がケーキを食べてる姿が…………。
「やられたな……」
「あいつら~」
そこに写る二美子は満面の笑みだ。
裕太と顔を見合わせて笑う。
俺たちの妹は、何て可愛いのだろうか。
「裕太、急いで帰ろう」
「だな」
ふてくされた光麗も誘い帰路に着く。
さあ、お兄さんたちは、妹の安全を確保すべく全力で動きますよ。
どんなことがあっても、兄さんが守るよ。
騒ぎすぎた3人+兄とその後輩が二美子を怒らせるのはまた別の話し。
年下男子と年上男子~二美子シリーズ~ なかばの @Nakabano-23
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