第30話


二美子ニミコの部屋の前へ来る。


コンコン


扉をノックする。ほんの1枚板を隔てた向こう側なのだが、ここまでの道のりは長かったな…。兄として会える日が来るとは思ってなかったし、二美子にとってそれがどう作用するか……不安ももちろんあるのだけれど……

「…はい…」

小さいが、確かに二美子の声が聞こえた。

思わず扉を勢い良く開けてしまった。

「あ…ごめん……」

ちょっとビックリした二美子がいたが、俺は、何だか込み上げるものがあって、

「あの……二美ちゃん…」

「…たっくん…だ」

頭の中に小さい時の二美子が浮かぶ。ショッピングセンターで迷子になって、泣いて、おんぶして帰ったっけ。今まで、思い出せなかったことがどんどん思い出されて……目頭が熱くなってくる。

「思い……出したのか?」

「…うん」

まだ、声が出しずらいのか、声は小さいが、ちゃんと聞こえる。

「全部?」

「…た…ぶん…」

そうか…思い出したか……

きっと、辛いこともたくさん思い出したのだろう。それでも、俺はやっぱり嬉しいと思っている。俺たちの思い出を二美子が覚えている。俺を兄として見ている。それは思った以上に感情をかき乱した。

俺は、涙が止まらずに崩れ落ちた。



「気になるよなー」

裕太ユウタさんが、天を仰ぎながら呟く。

「当然だろ!」

「大きな声出すなって、俺も色々と最近わかったこともあるからさ」

「え……」


 最近って……


輝礼アキラ

「はい……」

なんだよ、このぶわっと纏わりつく威圧感は。

「俺は二美子の兄貴な訳。俺の妹ってめっちゃ可愛いわけよ」

「はあ……」

「だから、信用したやつにしか、二美子の視界にもいれたくないわけ」


こえー……


「まあ、その事情についても詳細なことまでは言わねえ。聞きたきゃ本人に聞け。」


まあ、それはそうだ……


「ただな、概要を言えば、俺とタケルと二美子の父親は同じだが母親が違う」

そうなのか……

「二美子はほんとの母親を知らない」

「え」

「二美子には、俺たちも知らない忘れたいことがあったかもしれない。俺が知ってて尊が知らないこと。俺が知らないで尊が知ってること。誰も知らないこと。いろいろ考えられるんだけどな…。まあ…それがいい思い出ならいいんだけどさ、そうでなかったら、この間の雅人マサトのときのような……」

言葉がない。そうかもしれないって思ったら、二美さんに聞けるわけない。

「あとは…お互い子どもじゃない、任せるよ」

ニッと笑う、裕太さん。


これはズルいな……


けど、裕太さんの思惑通りでいい。俺は二美子さんが言いたくなったらでいいんだ。そんなこと聞かなくたって、俺たちは二美子さんの力になりたい。


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