第29話


バンッ! ガタンッ!バンッ!


二美ニミー!!」

「やかましいっ!裕太ユウタっ!」

タケル、お前いたの?」

「さっき着いた。落ち着け、別に発作でもないし、悪化したってわけでもないから」


ビックリした……


玄関で物音してから、リビングまでの距離ってそんな瞬間的に移動できるか?

裕太さんの勢いと尊さんの冷静さに圧倒される…。二美子さんと買い物に行って帰ってきた時、おぶった背中で確かに言葉を発したんだ。


「ありがとう。たっくん」


誰だ?たっくんって……。


まあ、それも気になるけれど、

「声が出たって?尊は聞いたのか?」

「だから、俺も着いたばっかだって」

「じゃあ、輝礼アキラだけ?ほんとに二美子の声か?」

「間違いないですよ。だっておんぶしてて……」

「「はあ?!」」


おっ……と……。


2人からの間を置かずの不機嫌な返答。

「いや、これには色々訳があってですね…」

「うん、聞こうか」


尊さんの笑顔が怖いわ……


「いつも通る公園の入口に裕太さんのお父さんがいたんです」

2人の動きが止まる。

「……あー、あれじゃあ、抑止力にならなかったかあ」

裕太さんが頭をかきむしる。

「で、回避しようと遠回りの道を選んだんだけど、その辺りから……」

泣いたとは…言えねえな。

「ちょっと痛かったらしくて、」

「それは親父を見て驚いたから?」

「驚いた……そうなのかもしれません」

「ミコちゃんは反応してたんだよな?」

「わかってた。父親だって認識してるって思う」

「ああもう、いっそのこと引っ越すか」

「裕太、問題はそこじゃなくて、どうしておんぶした?」

「え、だから、痛いってことで……」

「ほぅ……」

「心臓に負担がかかったのかな~って……」

「……なるほど」


これって尋問ですか?

怖いです、尊さん……


「で、そのときに聞いたんです。声。だから、間違いなく二美さんの声です」

「二美は何て言ったんだ?」

「えっと、確か“ありがとう、たっくん”って。裕太さんたっくんて誰ですか?知ってます?」

俺は、捲し立てるように話したので、すぐに尊さんの変化に気付くことができなかった。が、裕太さんが反応した。

「それって……それは…おい、尊」


え、何だ…?


「いま、ミコはどこに?」

え……

尊さんの落ち着いた声に少し戸惑う。

「部屋か?」

「そうだけど……って、ちょちょっと、どこ行くんですか!」

席を立ち、どこか…というか2階へ行くよな、この流れは。思わず引き留める。

いくら尊さんでも、二美さんが寝てる寝室へ行こうとするとか、それはちょっと……

ここで、裕太さんから思いも寄らない一言があった。

「いいんだ、尊は」


は?


「なんだよ、それはどういう……」

「尊も二美子の兄貴だよ」

「は……?」

兄貴って……兄貴……お兄さんってことだよな。どういう、、、


まさか、たっくんって……


ああ、わけわかんね……

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