第21話

二美子ニミコ……だよな」

循環器内科へ行こうとしていたとき、病院入口で声をかけられた。

聞き馴染みのない声で、顔も知らなくて、私の名前を口にしているが、人違いではないかと思った。戸惑っている私をよそに、相手は饒舌に話しかけてくる。

「こんなところで会うとは……。いやー、これは運命だな。元気だったか?こんなに大きくなって……見違えたよ。元気そうで良かったよ。」

相手の50代半ば?ほどだと思われるおじさんは、何だか親しげに話しかけてくる。周囲を見回してみたが、私に話しかけているのは間違いない。

けれど…いったい誰……?

私の戸惑いはそっちのけで、おじさんはつらつらと話すのを止めない。

「この間は大変だったな。その時の話しも是非聞かせてくれよ。父さん、仕事でその話し使いたいんだ」


 え


耳がぼわーんて鳴った。文字通り、鳴ったのだ。


な……、え……?え……?!


物理的な変調に加えて、彼から発せられているたくさんの言葉のなかに、キラーキーワードがいっぱい……。

空間が苦しくなる。

「いやー、これで、いろいろいい方向へ進むよ。二美子、ドナーになってくれよ。お前に兄弟がいるんだ。可愛い弟だ。検査を受けてくれると助かるんだ」

この人がお父さんで、事件の話を聞きたくて、弟がいて、ドナーになれって……

なんなんだ? どういうこと???

お母さんから聞いたことが話がいっぱい…………


ん?


記憶の奥の方が何やら騒がしくなる。


「やっぱりあの人の血だね。嘘ばかりつく」


お母さんに吐き捨てるように言われた言葉が脳裏に響く。

ずいぶん前の話し。小学生の頃、嘘ではなかったが、友だちと同じ体操服いれがほしくて、これじゃなきゃダメだと言ったとき、そう言われた。

あの人っていうのは、父さんのことかもと、感じたことがあった。


「二美子、今日からお前はここで暮らすんだよ」


ああ……小さい頃、連れてこられた。そうだ、この人に今の家に連れてこられた…。それまで育った場所があった……。お兄ちゃんもいた……。お母さんも。ん?裕太兄じゃなかった……。あれ?お母さんが違う……?でも、お兄ちゃんがいた……。

あれ? えっと……


私は、いったい、どこの子なんだろう……


目が覚める。

今までのことは夢?夢ならいいのに……。

窓から光が入ってくる。暖かい日差しが部屋を満たしている。


私は涙が止まらなかった。

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