第20話

二美子ニミコは?!」

心療内科の診察室をすごい勢いで開けたタケル。中にいた梨緒リオ先生と尚惟ショウイが固まっていた。そのすぐ横のソファで寝ている二美子がいた。

「二美……!」

「尊さん、大丈夫、眠ってるだけです」

「あ……そ、そうか」

扉を留めていた左手の力が抜け、スライドの扉がゆっくりと閉まろうとする。それを尚惟が止める。結構騒がしいのに眠ってるってことは……

「睡眠導入剤……?」

「私の判断。穏やかに眠るためだから、今日は病院で一泊ね。いい?」

「……わかりました。裕太ユウタに伝えます」

一礼して、部屋を出る。一緒に尚惟が退出してくる。

「尊さん、大丈夫……じゃなさそうですね」

「そんなこと……いや…そうかもな……」

家を出て、尚惟からの電話をもらった後、しばらくして壽生ジュキから連絡が入った。

尚惟に電話したら、まだ、合流していないと聞いて、こっちに連絡をくれたのだ。

父に裕太が接触したと聞き、胸がゾワッとした。その後の展開を聞いて、後少しで病院に着く距離だったが、動けなかった。

父は、裕太がわからなかったのか……。確かに小さいときに別れたのだ。俺たちもずいぶん変わった。だけれど、そんなものかと落胆する自分がいた。少なくとも俺は、ショックを受けていたのだ。そして、そんな自分自身にショックだった。何かをまだ、期待していたのだろうか…。

裕太もそうなのだろうか…。


『尊さん!二美さん、やっぱり会ってるみたいです。この人、裕太さんと二美子さんのお父さんなんですか?! 』


壽生のその声に我に返る。


会ったのか!記憶が曖昧になってる部分に関わる父に!会っていたのか……!


思わず携帯を切って、走っていた。どうしてこうも大人たちは土足で踏み込んでくるのだろう?自分たちの都合ばかりを盾にして、踏み荒らしていくのだろう……?

受付で名前を出すと、病院で過呼吸を起こしかけたこと、今は梨緒先生が診察してるとのことを伝えられ、思わず踏み込んでしまった。

「ありがとな、尚惟が受付にちゃんと俺の名前言っておいてくれたから、止められることなく入れた…」

「いえ、俺も頼まれたのに……すいません」

「お前、悪くないだろ」

「…二美さん探してた人って、どうなりました?」

「今、裕太が対応してる。もうすぐ来るだろう……。じゃあ、俺、着替え持ってくるわ」

「……あの!」

「ん?」

尚惟の顔が真剣で、言いたいことが手に取るように分かった。

「俺に聞きたいことって感じかな。気になるか?俺とミコちゃん」

「興味本位ではないです。二美子さんを呼び捨てで呼んで、心配してる姿がなんだか……」

「だよな。彼氏だからな…。尚惟、これは二美子も知らないことなんだ。ミコにはまだ話せない。それでも聞くか?」

「…………二美子さんも知らない?」

「面倒な話だぞ。いいのか?」

酷な言い方だな……こんな風に言われたら逃げられないよな。ああ、意地悪な兄だな。妹のことしか考えてない。

「うそうそ。とにかく裕太に言って、着替え取ってくるわ。ここにいてやってくれ」

裕太に偉そうなこと言えないな……。

頭をかきながら、病院の待合所まで移動した。


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