第18話

18。


今、俺はタケルさんからの電話を受け取り、取り敢えず携帯と診察券を持って家を出た。

二美子さんの気持ちを落ち着かせるのに時間を要したけど、無事に家を出ることが出来た。いつも通る道は危ないから通るなといわれている。

「二美子さん、違う道を通るけど、心配いらないからね」

二美さんを見ると首を縦にふった。

「二美子さん、手を繋いでもいい?」

歩きながら、提案してみる。

「ほら、少しでも安心するかなって……」

言い終わる前に、右手に温もりを感じた。

二美子さんを見ると、少し頬を赤くして手を握っている。

不謹慎にも、俺までちょっと赤くなる。

決して安心できる状況ではないんだけど…まずい、ちょっと幸福感が……。

繋いでいる手に少し力が入る。この手は離したくないな…、今も、これからも…。

「あのね、二美子さん、こんな状況だけど…聞いて」

「……」

「俺ね、結構独占欲強いのかも……。二美子さんと会えなかったとき、寂しかったよ」

彼女の目を見る。

「そばにいられなかったから、心配で死にそうだった。これからも、俺、二美子さんのこと、きっと、すごく心配してしまうと思うんだ」

「…………」

「好きだよ」

二美子さんの顔がもっと赤くなる。繋いでない方の手で顔を隠そうとする。

ああ、そういう仕草も可愛くて。

思わず笑みがこぼれる。



この先にあるバス停でバスに乗る。そうしたら1つ通りは向こう側にはなるが、病院の近くまで行ける。二美子さんの状態を考慮して乗り物に乗ることを俺は選択した。

もし、待ち時間が長そうなら、時間的にタクシーもありだな…。

視線の先にバス停が見えた。到着して、時刻表を見ながら、スマホを取り出して尊さんに電話する。

『おお、尚惟ショウイ

「え!この声は……光麗ミツリさん?なんでタケルさんの携帯を……?」

『ああ~…まあ…諸事情ってやつ?』


はあ?


『僕の携帯を尊先輩が持ってるから電話してみて。じゃ』

きれた……

諸事情ってなに?

言われた通り、光麗の携帯に電話してみる。

『はい、尊』

ほんとだ……。

「尊さん、尚惟です」

『おお、今どこだ? 俺は今家を出たとこだ』

「バス停まで来ました。でも……んー、バスが来るのちょっと後になりそうなんで、タクシーひろいます」

『その方がいいかもしれないな。結構近くにまで来ていそうだから。俺もすぐ追い付くから頼むぞ』

「わかりました」

電話を切ってすぐ、通りかかったタクシーに手を上げる。良かった、すぐに止まってくれて。

急いで乗り込む。

「R国立附属病院までおねがいします」

ずっと、手を握ったままでいる二美さん。

「大丈夫?」

尋ねると、ニコッと笑う。人間てほんとに欲深い。ひとつ想いが叶うと、さらにまた想いが芽生えてくる。

声が聞きたいよ……二美さん……。

柔らかいあなたの声で名前を呼んでほしいよ。繋いだ手が熱いよ……。



二美子も同じように焦れったく思っていた。


「俺ね、結構独占欲強いのかも……。二美子さんと会えなかったとき、寂しかったよ」


こんな状況なのに、尚惟が会えなくて寂しかったと告げてくれたとき、自分の失態を罰してやりたくなった。

尚惟を寂しがらせるなんて……!

端正な顔立ちを切なげにコーティングさせてしまうと、撃ち抜かれてしまう。

繋いだ手を離したくない。尚惟に呆れられるかもしれないが、この想いがこの手先から伝われ!

私も寂しかったと、心配かけたくなかったと、好きだよ、と……。

尚惟の横は私の場所でいいよね…?

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