第15話

15。


沈黙が空間を支配する。

目の前にはタケルさんがいて、俺たち3人は尊さんから現状の話を聞いた。

“声が出なくなる”

“ショックを受けて放心状態だった”

“裕太さんも参ってる”

そんな話だった。

二美子ニミコさんは自分の部屋で休んでいるということだった。

「…………じゃあ、どうして声がでないのかは分からないんですね」

尚惟ショウイの質問に尊さんが答える。

「俺も、こんな状態になってから、今日初めて会った。裕太ユウタに聞いてからすぐに来たが、裕太がミコちゃんの状態を知ってすぐに俺に言ってきたわけじゃないと思う」

「診てもらった方がいいんじゃないですか?何かあったのかも……」

壽生ジュキがいう。

「ああ。そうなんだけど、今はミコちゃんが落ち着くのを待ってるんだ。現に誰にも知られたくなかったとこ見ると、無理矢理はまずいだろ?」

俺は、みんなが冷静に話してる中、ずっと落ち着かなかった。いつも来ていたこの家の雰囲気が、彼女がここにいないだけで全く違う場所に感じたのだ。

声がでなくなるなんて……何があったらそうなるんだ?どうして普通に日常が送れないんだ……。もう、辛くて……。

「二美さん、心臓はどうなんですか?」

俺の質問に、尊さんの顔が歪む

「うん……。3人からの話では早い目に受診しなくちゃいけないだろうな。本人に行かなかったのかどうかも聞かないとな」

「尊さん……聞いて大丈夫なのかな」

「分からない……情報が少ないからな…なんとも言えない」

重い沈黙。その時、2階の扉が開く音がした。いつもならそんな音、気にしないのに、今日は驚くほどしっかりと聞こえた。階段を降りてくる音、二美子さんの姿が見えた。

思わず立ち上がりそうになる。

「…………っ」

ハッとした表情になり、固まる二美子さん。

「結局、みんな心配で来ちゃったみたいだよ」

尊さんの柔らかい声に二美子さんが、安心するのが分かった。スマホを出してなにやら打ち込む。

3人のスマホがほぼ同時にピコンと音をたてる。

グループの招待状が届く。3人は顔を見合わせると、招待を受ける。するとすぐにメールが送られてきた。


二美子【ごめんね、ちゃんと言えなくて】


二美子さんの方を見ると微笑んでいた。

笑ってんじゃねえよ……、辛いときに笑うなよ……。

「調子が悪いって、伝えようとしてくれたじゃない」

壽生が言う。


二美子【今の状態を言いたくなかった】


そうか……俺たちはまだ、信用されてないのか……。


二美子【こんなでごめん…】


俺の心の引っ掛かりに、彼女の「ごめん」が触れてしまった。

「いい加減にしろよ!俺たちはそんなにバカじゃねえし、こんな事ぐらいで否定なんてするか!バカ!」

思わず言ってしまって、驚いてこっちを見ている二美子さん見て、ハッと我に返った。

「……ごめん、頭冷やしてくる……」


ああ、ガキか俺は……


ああもう、泣きそうだ。




輝礼アキラが飛び出したのを、壽生が後を追った。尊さんが頭をかきながら、二美子さんに近くまで来るように促した。

輝礼が羨ましい……。率直で嘘がない。俺もそうやって真っ正面から二美子さんに言いたい。俺の隣で嬉しいことも辛いこともって、言ったじゃないかって。どうして隠すんだって。でも、俺は、きっと二美子さんにすごく甘い。

顔を見てしまうと、少し色素の薄い茶色の瞳でこっちを見ていると思うだけで、もう、許してしまうというか……。とにかく、抱き締めたくなるというか……。

「輝礼は、心配してたんだよ、分かるよね、ミコちゃん」

二美子さんは首をたてにふる。

二美子【どうしていいか分からなかった】

「うん、みんな分かってるよ」

二美子さんが椅子に座ると、尊さんのスマホがなった。着信表示を見て、尊さんがすぐに電話に出る。

「もしもし、……うん。…………そっち行く。大丈夫、尚惟がいるから。うん」

短い電話は終了すると、尊さんは席を立った。

「尚惟、悪いけど俺たちが帰ってくるまでミコちゃんといてくれ」

「え?」

「すぐには戻れないと思うから」

「……分かりました」

「頼むな。ミコちゃん、尚惟なら大丈夫だろ?ちょっと行ってくるね」

愛おしそうに二美子さんを見つめる瞳に、ざわっとしたものを感じた。


これって……焼きもち……?


はあ……俺ってやつは……。器が小さいな。恥ずかしい…。

尊さんが部屋を出ていくのを見送ると、2人っきりになった。

「飲み物……コーヒー入れていい?」

席を立とうとすると、二美子さんが手で制する。自分を指して、俺を座らせる。

「……二美子さんが淹れてくれるってこと?」

にっこりと笑う。

もう……可愛い……。ダメだ。俺、二美子さん欠乏症だったから、今、まじでヤバイことに気づいたわ……。

「分かった。待ってる」

座り直すと、パアッと表情がほぐれたのが分かった。

ヤバイ……抱き締めたい……!

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