第14話

14。


「はあーーーーーー…………」


長いため息をつく。

ついても、何も変わらないし、何か悪いものが全て出ていってくれるならいいんだが……


ああ、情けねえ……


二美が目をつぶっているだけで、不安で潰れそうになる。もう目を開けないかも……と。俺の知らないとこで、いったい何があったんだよ……。声がでねえって、どうやったらそうなるんだよ。

結局、買い物もするにはしたがなに作るんだこれ?ってないようになっちゃって。

尊が連絡くれて、良かった……。

「はぁ……」

雅人のことが何とか終わって、トラウマとのことに決着がつきそうだったのに、やっぱ専門家ってすげえな……。

尊から、母親との話を聞き、呆然とした。


何やってんだよ、親父……。


たまにしか帰って来ない人だった。それでも、家にいるときにはキャッチボールしてくれた。野球の試合の応援にも来てくれた。作ってくれた焼きそばはおいしかったよ…。少ない思い出だけど、いい親父しか浮かばねえ。

お袋は…二美子おいて親父が出てから、少しずつ変わっていった。1度、二美子が小学校に上がる前、お袋と一緒にでかけたはずなのに、家にはお袋しかいなかった。部活で遅くなった俺が、その事に気づくのは、随分、あとになってからだった。

二美子が帰ってこなかった。夜になっても。探しに行かないお袋を家において、探しに行く。真っ暗な公園のベンチ脇の茂みに、小さくなって、声を殺して、二美子はいた。

お袋に、かくれんぼだと言われて、ずっとそうしていた。真っ暗になって誰もいなくなっても……。目にいっぱい涙をためて、声も出さずに泣いていた。俺の姿を見つけても動けないほどそうしていたのだ。

俺は、部活を辞めた。

きっと、これからも何かあるかもと、できるだけ二美子のことに関わった。今思えば、それもお袋には気に入らなかったのかもしれない。俺のお袋は…強い人ではない。ひどい母だった。それでも、俺は憎みきれなかった……。

尊の気持ちが分かる。でも、俺は尊のようにお袋をねぎらえなかった。最期の懺悔を聞いていたとき、何も言えず……。俺の知らないとこで、二美子が辛い思いをしていたことしか入ってこず、何もできない自分もお袋と同罪だという思いが心に充満した。

お袋だって辛かっただろう…。頭では分かっている。でも、俺はまだガキのような思考にしかならねえ……。


てめえらのしんどさ、二美子にぶつけてんじゃねえわ。


って。

「ああー!めしだな!うん」

とにかく食べよう!しっかり食って、しっかり寝る!尊も来てくれるっていってるし、少し安心だ。俺一人だととっちらかる…。

「裕太先輩!」


うわー……


馴染みある声に足が止まる。

「俺、有休なんだけど。知ってるよな、光麗ミツリ

「そうでしたっけ。俺に長く会わないと、寂しくて泣いちゃうでしょ」

光麗は俺をまっすぐ見ている。顔は笑ってるけど……ああ~これはちょっと怒ってるな……。









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