第11話

ふわふわする……。ゆらゆらする……。


「二美子さん」

あ、壽生ジュキくん。この間はありがとう。話すと気持ちが楽になるね。聞いて、私、もっとたくさんの経験をしたいの。怖さと闘えるかな?


「二美子さん」


輝礼アキラくん。フェスの時は本当にありがとう。潰されそうだった気持ちに向き合えたのは、それでいいよって言ってくれたから。動けなかったのを動かしてくれたから。


「二美さん……」


あ……尚惟ショウイ。尚惟。

声が聞きたかった。会いたかった。何だか久しぶりだね…。


ん?


久しぶり……?どうして久しぶりなんだろう?あれ……?私、どうしてこんなにも尚惟に会いたいって、声を聞きたいって思っているの?いつでも尚惟は電話すると出てくれて……ああ、試験だったから会えなかったのか……。


あれ? 何か違う……。連絡…くれた……よね。私どうしたっけ……どうしたんだっけ……?


ぐぅー…………ん


少し高いところから見下ろすような視点に変わる。そこには私がいた。電話をしている私。砂を噛むように返事をしている。


「体調が悪いから、ごめん、会えない」


これって…私が答えてるよね。

目の前に私の姿がある。え?ここにいるのに。私が目の前にいる?

……じゃあ私は…誰?

場面がかわり、今度はメッセージを送っている。

【ちょっと、忙しくて、ごめんね】


【ごめんね、体調が悪くて】


【熱があるっぽい、ごめんね】


たくさんのごめんを打っている。

どうして、電話しないの?何してるの私…………

 

その瞬間、目が開いた。

飛び起きる。回りを見る。私の部屋だ。

「……っ…」

口が小さく開いただけで、声がでなかった。そうだった。私、声がでなくなったんだった…………。

突然、こんな風になってた。自分でも訳がわからない。少ししたら治るだろうくらいに思っていたのだが、戻らなかった。

尚惟にも誰にも言えなかった。心配かけたくない。どうして私はこんな風にダメなことばかり起こすのだろう?

1番知られたくなかった兄にも知られてしまった。ショックを受けていた。申し訳なくて、いたたまれない。

どうして私は、こうなんだろう……。

大学もちゃんと行けず、トラブルも自分で解決できず、しんどさばかりを表に出しちゃって……ああ……、なんだか…

起こした体が再びベットに沈む。


尚惟…会いたいな……でも、こんなダメダメを見られたら、嫌われる。それも嫌だ……。

頭のなかで、ノイズが生じる。チカッと光って、ある場面がざーっという低い音の中から、明らかに違うが響く。


 大きくなったな…………


まぶたが押し上げられ、動けなくなる。


なに……?


聞いたことないはずの声の感じなのに、知ってるような…。

息を深くはいて、視線を周囲にゆっくりと送ってみる。けど、そこは私の部屋だ。

裕太兄…じゃない。尊さん…違う。けど、つい最近も聞いたような変な感覚…………。

ああ…病院の人だったかも?病院の…………


「二美子……か?」


飛び起きる。

今、病院での待ち合いで声をかけられた絵が浮かんだ。振り返ったところに年配の男性が……


ずくん……


「……っ!」

胸がぎゅっとなった。

思わず、両手で押さえる。

痛ったいな……、もう! って発したつもりが、言葉になってない。

「……っ……!」

息をしよう、ゆっくりと、大丈夫。これまでだってひとりで対処してきた。このくらいは平気……。

ふーっと息を吐く。ゆっくり身体を横たえた。痛みがまだ残っているが、静かにしていると、騒ぐほどではない。


「二美ー、タケルが来たけど……会ってみるか?」

扉の外で裕太が声をかけている。

もう少し、時間がほしい。もう少ししたら、平気になると思うから……。

声が出ないから、ちょっと待ってが言えない。余計に心配させるよな~……。そうは思ってもどうしようもない。

「まだ、寝てる?」

あ…尊さんの声だ…。

「どうだろ。二美ー。」

「ここのところ体調はどうなんだ?」

尊さんの質問に、一瞬の間。

「尊はそこにいろ。二美、入るぞ」

扉が開く。

「二美子」

裕太兄は、転がってる私を見てぎょっとする。

「おい、発作か?痛いのか?」


違うよ、発作じゃないから。


近寄ってくると、そっと額の乱れた髪を直す。そうか、手が胸にあるから発作と思ったのかな……。

そう思ってると、頬をなでられる。

ん?おにいちゃん……?

「泣くほど痛いのか……?」



そこで、自分の目から涙が流れていた事にきづいた。やだ、泣いてたなんて……。

ハッとして、身体を起こそうと力が入った。

「……っ……!」

ちくんとした胸に顔が歪む。

「二美!」

裕太の声に驚いた尊が部屋に駆け込む。

裕太の後ろから心配そうな顔をした尊が見えた。


もう……やだ……


痛みも悔しさもは恥ずかしさも全部が頭の中でぐるぐるしていた。

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