第5話
俺はカフェオレのホット、二美子さんはミックスジュースをたのんだ。
注文したものが来るまでの間、どうしてアルバイトをしようと思ったのかを聞いた。
まあ…二十歳を過ぎているのだから、働きたいという大人に「何で?」という言葉は不要なのだが、問題はそれが彼女であることなのだ。今までは怖さや辛さから働くことは難しいと判断されていたのだろう。
本人もそういう選択をする前の段階だったのだろうと思うのだけど……。
「
「そう」
えっと、どこでも出てくる裕太兄さん…
「お兄ちゃんがいると安心してしまって、つい甘えてしまうから。そういうのダメだと思って」
「けど、二美子さんには理由があるだろ?どうなの、あれから体は」
「……平気」
嘘つくなら堂々とついてくれればいいのに、そういうこと慣れてないから素直さがでちゃうんだろうな。
「そうやって嘘つくからダメなんだよ」
「嘘じゃないわ」
「じゃあ、
「それは…………」
ああ、もう、俺も意地悪だな……。
「ねえ、二美子さん。二美子さんは裕太さんが体調崩したり、病気になったらどうする?ほっとける?」
「そんなこと出来ない」
「ね、そうでしょ?同じだよ、裕太さんも尚惟も俺も」
そう、俺もほっとけない。
「俺に相談ってほんとにその事?」
「うっ……嘘じゃないよ、アルバイトのことは。自分でちゃんと生きていけるように働くことが大事だと思ってるから」
「うん、俺もそれを否定はしないよ」
少し間があく。その間に注文したものが届いた。
「うん、そうだね。アルバイトのことは嘘ではないけど、まだ相談する段階じゃないのかな」
「そっか…」
カフェオレを口にしながら、二美子さんを見る。喫茶店のテーブル席って何だか相手との距離感がバグる。テーブルを挟んでいるだけで、結構近い位置に相手の存在がある。気付かなかった仕草や癖が目に止まったりするのだ。
ん?
テーブルの上におかれた二美子の手に目が止まる。左手人差し指の付け根に…傷?
「どうしたらいいかも、どうしたいかも考えられなくて。いろんな事は思うのだけど、どこかでそれ全部…………」
急に固まる二美子さん。
「全部……どうしたの?」
「…………うううん、何でもない」
「うそ」
「……うん、嘘。」
そうか……考えてばかりで疲れてるんだ。
「ジュース、美味しいよ。飲まないなら俺が飲むよ」
「飲むもん」
思い合ってるって、時にお互いを縛るのかな…。そう思うのは俺がロマンチストとか?
「美味しいでしょ?」
「うん、雰囲気も好きだよ、ここ」
「だと思った。今度は違う雰囲気のとこ行こう」
「ふふ、いいね」
「まとまった話じゃなくていいんだよ、二美さん。必ず結論がないといけないわけではないよ。いいじゃん、そんな風に話せば。少なくとも俺はそれでいいと思う」
「壽生くん」
俺はね、二美さんが話して、その事で前へ進めるなら、いつでも聞くよ。
言葉では伝えられないけどね。
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