第3話 ヤって後悔するのが男。ヤったら後悔したくないのが女。

 や、やっちまった…。と後悔するのはもう遅い。だけどそう言いたくなるくらい今日の僕はどうかしてたと思う。でもしょうがない。なんかイラっとしたんだもの。事が終わった後のベット。僕はいわゆる賢者タイムを迎えて、ひとり激しく後悔していた。となりにはクラスの美少女ギャルちゃんの宇佐美が裸で横になっている。


「あのねあたしねほんとは違うのごめん違うのが違くてそのこういうのよくわかんないっていうかというかみんなが言ってるのって嘘でうわさとかぜんぜんほんとじゃなく今日がはじめてなのほんとなのうそじゃないの」


 宇佐美は僕の胸に頭を乗せて、小声でどこか混乱しているようにぼそぼそと喋っている。ぶっちゃけうるさいから黙っててほしい。僕は今すぐにでも寝たい。眠って全部忘れてしまいたいのだ。


「でも。なんか。気がついたら。ここで。あたし。あれ。その。これじゃ。噂と。同じ。みたい」


 宇佐美は名伏し難い表情で僕を見詰めている。めんどくさい。果てしなくめんどくさい。多分僕が何か言うまでぼそぼそと何かを言い続けるだろう。僕はわかってる。彼女がどんな言葉を欲しがっているかくらい。


「でもこれだと噂してる人たちの言ってる通りになっちゃったよねでもあたしデートととかそんなに経験なくて今日のデートあなたは全然あたしの話聞いてくれてなくて男の子ってデートの時女の子に優しいはずだよねリクとかヨウジは二人でどこか行くときいつもあたしに話しかけてご機嫌取ってくれてお伺いを立ててくれて」


 だれやねリクとヨウジって?って思ったけど、案外すぐに思い出せた。たしかヨウジはクラスの一軍リア充陽キャリーダーくんの茶野陽慈のことだろう。リクはたしか宇佐美の隣の席に座っている宅川理久のことだろう。宅川は陰キャオタだけどデブでもガリでもない中肉中背のたしか優しそうな男の子だ。


「あなた。いみふだよ。だってすごく強引。顔は綺麗。あたしあなたのこと。全然知らないけど。すごく。強引。知らない。こんなの。知らない。知らない。知らない。わかんない」


 僕はわりと年のわりにはセックスに慣れてる方だけど、この子はそうではなかった。初めてのセックスで彼女の価値観は今すごく揺らいでいるのだろう。まるで縋るように僕に答えを求めている。決められないのだ。なんでここに今自分がいるのか。その理由を彼女は決められない。僕は彼女と手を絡めて、目を合わせて、できるだけ優しく囁く。


「僕は君とこうなれて嬉しいよ。だって君はすごく可愛いくて綺麗だから。僕は君がすごく欲しかったんだ。だから捕まえたかった。捕まえたんだ」


 要は彼女はセックスしてしまったことに後悔したくない。かといって自分が望んだことだと認めたくもない。僕のせいにしたいだけ。だから僕はそのための理由を与えてやるのだ。できるだけ彼女の自尊心が満たされるように。


「そうなの。そっか。だからあたし捕まっちゃただけなんだね」


 宇佐美さんはホッとしたような柔らかな笑みを浮かべる。めんどくさい。すごく眠いのに、彼女は俺に体を寄せてくる。さっきまでは女の体の柔らかさに興奮してたけど、賢者タイムだとこの柔らかさにはなんの感動も覚えない。


「でもどうしよう。ヨウジ心配してたんだ。あたしが吉祥寺に来なかったことでメッセージ入ってたの」


「ふーん。そうなの」


「嘘デートの写真を吉祥寺でみんなが撮るはずだったの。あたしはやりたくなかったけど。女の子同士って大変だから」


「そうだね。女の子って大変だよね」


 そのとばっちりが来てるの僕なんだけど。僕の方がずっと大変じゃね?


「ヨウジは反対したけど、あたし女子チームにはあんまり好かれてないから」


「そうか。そうなんだね」


 そろそろ聞き流してもいいかな?


「でもヨウジはいつもそうだよね。なんかみんなの仲を取りまとめて頑張ってるんだろうけど。でもあたしそんなのうれしくない」


 他所の男の愚痴を聞かされてもねぇ。


「だけどリクはあたしにとってもやさしいんだ。あたしもマンガとかけっこう好きで。たまたま好きな漫画が一緒で。でもあのマンガすぐに打ち切られちゃって。二人でアキバ行って同人誌探して。他にも勧められたラノベとか読んでみたりとか。疲れない落ち着ける感じよかったの」


「そっかーそうのねー」


 オタクに優しいギャルは実在していていた!


「リクもウソコクやらされたあたしを心配してくれたの。ウソコクの相手ね。あなたかリクだったの。だから。リクじゃなくてよかったってすごく思ったの。傷つけずに済むから」


 それどういう意味で言ってるのかな?


「でもあたしだってバカじゃないの今はあたしみたいな子がオタクに優しいのが流行ってるんだよねでも流行ってるからってそれが現実になるわけじゃないよねリクが夢見るのは勝手だけど二人の穏やかな時間がなくなるのはいやだからつきあうのはいや」


 オタクに優しいギャルは消滅した!てか僕もしかしていわゆるBSSさせちゃった?リクとヨウジ。どうやら宇佐美と親しい仲だったようだけど。やめてくれよまじで。僕だって男だからわかるけどBSSは辛い。久遠のくそビッチめ。旦那さんカワイソー。


「ねぇ。これからどうすればいいのかな?あたしどうすればいいの?」


 好きにすればいいやん。と言えたら楽です。だけどさすがに悪ノリというか八つ当たり気味に抱いてしまって処女を奪ってしまったことに罪悪感は感じないでもない。さすがにここでこの子をヤリ捨てしたらこの先のこの子の未来がやばそう。アフターケアはしないといけない。でもこれを揚羽に知られたらまたDVが待ってるんだろうなって思うとちょっと鬱い。でもどうせ他所の女とやろうがやるまいがあいつは俺にDVし続けるだろうから、心配するほどのことでもないような気がしてきた。


「うん。まかせておけ。僕がなんとかする」


 ただし現時点ではノープランである。


「でもリリナも分かってると思うけど、俺たちが正式に付き合いはじめたことをオープンにすると君は間違いなく女子たちからビッチ扱いされる。暫くはウソコクニセカレカノを続けよう。チャンスが来たら、全部何とかする。俺が何とかする。するったらする」


 それを聞いて宇佐美は僕の首筋に抱き着いてくる。


「うん。ありがとうね。期待してる」


 宇佐美さんの瞳はキラキラしてみえる。あーこれ完全に僕に好意が移ったわ。BSS完成に御座る。つらい。こうして嘘告白による偽の彼氏彼女関係(ただし肉体関係あり)の継続が決定したのである。なにこの少女漫画みたいな入り組んだ人間関係。ノリで女の子とエッチしてはいけない。僕覚えた!


















 次の日の学校。朝から昼休みのすべての時間で宇佐美さんからの視線を感じ続けていた。もうこっちの方をちらっちらっ見てくる。そのたびに笑みを浮かべている。僕はとてもいたたまれない気持ちでいっぱいだった。そして昼休み。オタクに優しいギャルと仲のいいオタクくんことリク。本名宅川理久に廊下で話しかけられた。


「あの。酒々井くんちょっといいかな?」


 陰キャだけど別に容姿は悪くない感じの宅川はぎこちなくだけど笑みを浮かべて俺に話しかけてきた。


「なにかな?」


「宇佐美さんと付き合ってるってほんと?」


「ああ。そのことね…」


 宅川はどこか怯えるように俺の様子を伺っている。でも同時にどこか自信のような強気な感じも言葉にはあった。ほんとのことぶちまけてやろうか?なんて考えもよぎるが、ここは穏便に行きたい。


「ほんとだったら嬉しいよね。あんな美人で可愛いギャルがマジで告白してきたのならね」


「ってことは嘘告白されたってこと?」


「イヤどう見てもそうでしょ。身の丈に合わない妄想はしないよ。俺みたいなド底辺男子にあんな陽キャギャルが告白とかしてこないっしょないない」


 僕は手を振ってウソコクだって気づいてます感をアピールする。それで宅川は安心したようにどっと息を吐いた。


「ふう。そっかそうなんだ」


 好意がダダ洩れである。まあね。宇佐美がいうには秘密のオタ友関係だったみたいだし。僕がいなきゃ二人は付き合ってたかもしれないよね。頭抱えたい。すごく抱えたい!


「でもビッチって噂もあるしワンチャンあったらサイコーなんだけどね。げへへ」


 宇佐美の学校における評価はこんなものだ。陽キャギャルだけどビッチの噂アリ。それで夢を見るくらいの演技は入れておかないとウソコクに気づいてます演技にリアリティが出ない。


「彼女はそんな人じゃない!」


 怒気を孕んだ声で宅川が僕にイキってきた。


「彼女は優しくて素直でピュアないい子なんだ」


 ごめん。昨日でピュアさはなくなったのよ。すまん。ほんとごめん。


「そ、そうなんだ」


「そうだよ。だから宇佐美さん相手に勘違いしてべたべたしたら駄目だ」


 べたべたどころかぐちょぐちょでした。ごめん。まじすまん。


「誰にも言わないでほしんだけど、実は俺は宇佐美さんと趣味友なんだ」


 うん。昨日メッチャ宇佐美に愚痴られたから知ってる。


「彼女ほんとうは男が苦手なんだ」


「そ、そうなんだ。へ、へー」


 男が苦手だったのは昨日までの話だろう。


「この先ウソコクのアリバイ作りでデートするんだよね?」


 宅川が俺にずずいと顔を近づけてくる。


「ま、まあしなきゃいけないよね」


「そのときは僕がついてく。酒々井君と二人きりだと多分彼女もきついと思うから」


 そっかーきついのかー。きつきつだったなーきのうはー。


「お、おう」


 僕は宅川の気迫に負けて謎の要求を飲まされてしまった。そして強制的に連絡先を交換させられてしまったのである。











 放課後。リア充軍団が僕に声をかけてきた。


「リリナと付き合いだした彼氏なんだろ?だったら俺らとも友達だろ?ファミレス行こうぜ」


 陽気で爽やかな笑みを浮かべてヨウジこと茶野陽慈が誘ってきた。カースト的に逆らいづらくて俺は頷いた。そしてやってきたファミレス。俺の隣に宇佐美はさりげなくササっと座った。それを見て茶野が明らかに一瞬嫌そうな顔をしていたけど、すぐに爽やかな笑みを浮かべた。


「リリナはホントいい子なんだ。だからこんな優しそうな彼氏ができてほんと嬉しいよ。あはは」


「なー」「だよねー」「ねー」


 ウソコク仕掛けてきた連中がシレっと茶野に同調する。とりあえずリア充軍団はウソコクどっきりはまだばらさない方向で話が纏まった感がある。


「ところでさあ酒々井。リリナとのエッチはどうだった?リリナは恋の達人だから上手だったっしょ?」


 クラスの女王様的なリア充女子のリーダーさんが俺にニヤニヤと意地悪そうな笑みで話を振ってきた。宇佐美とのエッチ?まあ体は本当によかったよ。純粋にセックスだけなら経験した女の中でも上位にくる。ちなみに一番エッチが嫌なのは揚羽。だって殴ってくるもん。


「そ、そんな!俺はその…そういうのもっとお互いのことを知ってからじゃないと…」


「酒々井マジピュア。かわいい!きゃはは」


 クラスの女王様は俺の童貞感のある答えに満足したらしい。逆に茶野はどことなく不機嫌そうに見える。宇佐美さんがビッチだという噂を流している女子たちが気に入らないのだろう。


「まあ。そういうのは大事にした方が良い。焦ってしてもお互いに後悔するだけだからな。ちゃんと時間をかけて愛を育むべきだよ。俺は酒々井の恋愛スタイルを応援する」


 ガチで真剣な眼差しで僕のことを若干睨んでくる茶野。間違いなくこれ遠回しに僕に釘差してるよね?すまんな。ちゃんと時間かけなくてごめんな。なおそれで後悔するはずの宇佐美さんはテーブルの下で僕に足を絡めていたし、皆に見えないところで僕の手を握っていた。その陽キャどもの中身のない共感だけの会話でダラダラと時間は潰れた。そして日が沈み、解散となった。一応嘘告白がまだバレてない振りをしているので、僕は宇佐美さんを送っていくため二人で陽キャどもから離れた。だけど。


「すまない。俺もリリナと家の方向一緒だから途中まで駄弁ろうよ」


 茶野が僕と宇佐美さんとの帰り道に合流してきた。そして彼はやや強引に僕と宇佐美さんの間に体を滑り込ませた。もう!嫉妬のオーラが隠せてない!宇佐美さんは僕から離されたからだろう。どことなくムッとした顔になった。


「酒々井。いくら告白されたからって、カノジョのご機嫌をとらなくてもいいってわけじゃないぞ」


 宇佐美さんがむっとした顔を僕が不機嫌にさせたと自分に有利なように茶野は解釈したらしい。真相は逆なのだが、それを口にする義理は僕にはない。だけど茶野はどことなく僕に対して優越感を持ったようだ。どこか見下すようにこう言った。


「そうだ。酒々井はデートのやり方とかわかんないだろ?俺が二人についていって教えてやるよ。二人の恋愛応援してやる!」


 爽やかな笑みを浮かべている茶野。僕すごく殴りたい。陰キャも陽キャも嫉妬に狂って同じ結論に達しやがった。顔を抑えたい。申し訳なさで顔を抑えたい。


「じゃ。俺こっちだから!またな!」


 茶野は手を振って帰っていた。宇佐美さんが虚ろな目で呟く。


「あたし、リクにも同じこと言われたんだ」


「うん。なんか押し切られたんだよね」


「せっかくのデートなのに…」


 宇佐美はどんよりとした空気を纏っている。僕は彼女を抱きしめて、深くキスをする。


「俺のうち近くにあるから。今から二人っきりでお家デートしよう」


 宇佐美さんは僕の提案に嬉しそうにこくりと頷いた。そして僕たちは二人で手を繋いでお家に帰った。もちろんそのあとはイチャイチャしてハメハメした。だけど先送りになった問題に僕は頭痛が痛かったのだ。



****作者のひとり言****


陰キャも陽キャも同時にBSSしてるのがなんかエモい(・ω・)


BSSさせる系主人公とかクズ過ぎて(/ω\)


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