第29話 余韻

 夕星中学校吹奏楽部。今年度、北陸吹奏楽コンクール金賞受賞。


 理子はそう書かれた紹介文を見て、この夏のことを思い出していた。


 遡ること今から2ヶ月前。会場を出ると日が傾いているというのに熱気がその場にいた部員達を包み込む。それでもその暑さは感じさせないほどだった。

 閉められたガラス張りの扉の奥にはどこかの中学生が満面の笑みで集合写真を撮っていた。それを横目で見ながら理子は目の前にいる先輩の顔を見た。

「よく頑張った。」

「去年は銀賞で、今年は金賞なんだから。確実に1歩踏み出したよ。」

 励まし合いながらバスに乗り込んでいくコンクールメンバーたち。晴れやかな顔は1つもなく、悔しさと寂しさを含んだ表情をただただ眺めることしかできなかった。


 結果としては夕星中学校吹奏楽部は金賞を受賞。福井県代表として出場した中学生としては唯一の金賞受賞団体。もっと言うと福井県の中学生が北陸吹奏楽コンクールで金賞を受賞するのも、約40年ぶりのことだったと翌日の地元新聞で理子は知った。


 そんな名誉ある賞でも出場したメンバーが悔しがっていたのはそれがだったから。金賞は金賞でも代表にはなれなかった金賞。誰が最初にそんな言い方をしたのか知らないが、通称としてダメ金というのは吹奏楽部の誰もが知っているものになっていた。

 絵美はその先輩の顔を見ながら、

「あの演奏でもダメ金。」

 そう悔しがった。聞いていた側も悔しがれるほど、演奏されたものは全国に行ってもおかしくないレベルだった。

 こうして吹奏楽部の熱い夏はひとまず幕を閉じた。

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