第27話 ハルモニア

 12分。長いようで短い。それでも濃密で熱い時間だった。


 全ての出場団体が演奏を終え、外は日が少しだけ傾きつつある頃、理子たちは客席に座っていた。

「時間遅れてるね。」

 理子の横に座っていた絵美は時計を見ながら言った。予定時間よりも5分ほど過ぎていたが、未だ始まる気配がない。

「この時間ってなんか嫌。終わったって言う気持ちもあるけど、それ以上にハラハラもするし。」

 と絵美が言った瞬間に会場内にはチャイムがなった。開演前になるのと同じチャイムだ。このチャイムが一気に空気を変えた。


「ただいまより結果発表を行います。」

 そのアナウンスが会場に響いた。

 ホールの中は出演団体の生徒とその関係者である先生のみなっていた。ステージの上には各学校の代表者2名が乗り、夕星中学校吹奏楽部からも部長と副部長がその時を待っていた。


「プログラム順に発表します。」

 

 どこの学校も祈るようにその結果を聞いた。


「ゴールド金賞。」

「うわぁーーー!!」「キャーーー!」

 と結果に喜ぶ学校の歓声を聞くたびに緊張感が高まる。

 次々と金、銀、銅のいずれかが発表されていく。この段階でまず金賞という評価を受けなければ、全国への道は切り開かれない。

 結果が読み上げられ、その度に拍手をして、また聞く。その間、理子も祈らずにはいられなかった。


「16番 福井県代表。夕星中学校吹奏楽部。」


 全員の手に力がこもった。


「ゴールド、金賞。」


 その瞬間に歓喜は最高点になった。抑えられない感情が声に溢れて、理子も思わずホッと一息つけた。これで第一関門は突破したことになる。


 全ての学校の結果が発表されると、

「それでは、来る10月に名古屋、国際会議場で行われます全日本吹奏楽コンクールに出場する団体、2校を発表します。」


 県代表として集まった中学生のなかから選ばれるのはたったの2校だけ。今回、金賞を受賞したのは6校だった。


「プログラム順に発表します。1校目、プログラム…5番。」

 その瞬間に会場中に響く歓喜の声。選ばれたのは石川の中学校で、昨年も代表に選ばれた学校だった。


「それでは2校目。」


 みんなが手を取って、その番号を聞こうと必死になった。会場は静寂に包まれる。


 理子たちが入部してから今日までずっと聞いてきた。そのなかでも今日の演奏はダントツ。今までのなかで1番の演奏で、誰もが満足していた。

 何度も何度も繰り返し練習をして、楽譜が黒くなるほど書き込んで、録音を聞き返しては修正して、いろんな演奏を聞いて勉強をした。その姿を間近で見てきた1年生にとって、この演奏がここで終わって欲しくなかった。輝かしい舞台で、煌びやかな演奏をして欲しい。もっと聞いていたい。もっと聞かせてほしい。その思いは次第に伝染して、みんなが同じ気持ちになった。


 全国に行きたい。


 組まれた手はじんわりと汗ばむほどで、うるさい鼓動以外のものを感じない。


 発表者の息を吸う音がやけにうるさく聞こえた。

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