　その後、どのくらい時間が経ったのかわからない。ただ、舞台袖にまで来てしまったという視覚的な情報だけは理子にあった。

　薄暗くて、見上げれば高い天井、床は黒い木製。県大会が行われたハーモニーホールは舞台裏と舞台上は完全に別の空間で、舞台裏からは会場の様子は全く見ることができず、舞台上には厚い扉をくぐるしかなかった。でも、ここは反射板で仕切られているだけで、隙間からはコンクールの様子がよく見える。客席は県大会とは違って席がかなり埋まり、出場する学校だけでなく、出演しない学校の制服姿もあり、興味本位で見に来た人も多いことはわかる。それに聞こえてくる演奏も県大会とはレベルが違い、さすが予選を勝ち抜いてきただけの実力と言ったところで、どこの演奏も上手く聞こえてくる。素人の理子には、これにどうやって評価をつけるのかもわからない。

　前の学校が課題曲を終え自由曲に差し掛かったくらいのとき、舞台袖には音出しを終えた管楽器の部員達と合流した。顔自体ははっきり見えなくても、空気感から今までとは比べものにならないくらいの緊張感があることは理子にもわかった。

「ただいまの演奏は福井県代表―――。」

　気がつけば前の団体はとっくに演奏を終えて拍手を浴びていた。ステージにいる中学生は晴れやかな顔で、達成感に満ちあふれていた。きっといい演奏ができたのだろう。その一方、次に出番を控えたこちら側は一気に緊張感が最高点に達する。今まであった緊張感なんてかわいく思えてしまうほどの空気感で、演奏に参加しない理子ですら緊張して深呼吸してしまうほどだった。

「じゃあ、準備お願いします。」

　舞台袖の関係者の指示に従って一斉に暗転したステージに向かう。県大会と同じようにセッティングが慌ただしく行われていく。

　役目を終えたサポートメンバーは舞台袖に戻ってその様子を伺うことしかできなかった。手際良く、スピーディーに並べられた椅子、譜面台。着席して一呼吸おけるほどの余裕を持ってアナウンスが始まる。

「プログラム16番―――。」