第24話 カウントダウン
8月の上旬。いよいよ本番当日の朝を迎えた。
コンクールの朝はまずは打楽器、大型の管楽器類をトラックに乗せていくところから始まる。
「えっと次はそこのチャイム持って来て!それはまだ。」
荷台から1人の部員が指示を出しながらトラックの荷台には次々と楽器が乗せられていき、全てを乗せきると、
「お願いします!」という部長の声に続き、「お願いします!」と他の部員もその楽器をトラックの運転手に託す。その頃には合奏室はいつもより広くなり、少しだけ寂しさも感じる。
それからコンクールメンバーとサポートメンバーでそれぞれ用意されたバスに乗り込み、コンクールの会場を目指してバスに揺られる。
バスを下りた彩葉は一言目に、
「うわぁ、都会やぁ。」と周りの建物と通り過ぎる車の数を見て言った。絵美は後ろから「福井と比べちゃったらねぇ。」とその街並みを眺めた。
北陸吹奏楽コンクールは例年第2土曜から3日間に渡って開催される。会場は石川県金沢市にある金沢歌劇座。隣には現代美術を収容した21世紀美術館。近くには日本三大庭園の1つ、兼六園。そんな文化と歴史が入り交じるど真ん中で吹奏楽の暑い夏が繰り広げられる。
集まるのは石川県、富山県、そして福井県の三県から選ばれた代表校で、今年は全部で21校が集まっていた。会場中には制服を着た中学生が集まり、その左肩にはリボンをひらひらとさせていた。
「よし、これでOK。」
と理子の左肩にも絵美によってリボンが付けられた。その頃には下ろされた管楽器はそれぞれの荷物置き場へ動かされ、打楽器は組み立てに入っていた。
「じゃあ、これよろしくね。」
と打楽器のコンクールメンバーから理子と絵美は楽器を託され、待機列の最後尾についた。前には県大会で見たことがある制服の中学生が既に並んでいる。そこに通りかかる中学生は「こんにちは。」と挨拶をして通り過ぎていく、それに返しているともはや何を言っているのかわからなくなる。理子は託された楽器を置き、列が進むのを待っていると後ろから何かが軽くぶつかり、「うわっ。ごめん。大丈夫?」と楓は楽器を置いて理子の心配をしてきた。
「全然、大丈夫。」
「なら、よかった。」
その間もどことなく暇な時間が続く。そして楓は口を開いた。
「暇・・・やね。」
「うん。」
「理子ちゃんってなんで吹奏楽部に入ったの?」
「なんとなく。理由は特にないかな。楓ちゃんは小学校でやってたからだっけ?」
「ああ、もうそれ知ってるんだ。」
と苦笑いをしながら緩んだネクタイを結び直した。
「一応やってたのは本当だけど、そんなになんだよね。入ったときにできたのも音出せるくらいで、ほぼ初心者と同じ。クラブの練習だって簡単な曲をできるようにする練習って感じで、基礎は全くやらなかった。」
「そっか。」
「だから佐藤くんが選ばれてあたしはめっっちゃ納得。だって超上手いし。だから頑張ってほしいって思う。今日のコンクール。先輩も全員。」
そうしている間にも時間は刻々と迫っていた。
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