ハルモニア
第23話 同じ方向
夏の日差しが容赦なく照りつけ、蝉の鳴き声がより夏を感じさせる。
「あっつい。」
絵美は水槽に入った氷をカラカラを鳴らしながらうなだれ、理子も持っていたタオルで汗を拭った。
「暇すぎる。合奏はないし、新しい楽譜もないし。それにすっごい静か。」
「コンクールメンバーはずっとホール練習で学校には来てないからね。学校にいるのはサポートメンバーだけ。」
「そりゃ寂しくもなるよねぇ。実質、ここにいる吹部は普段の半分以下ってことだから。」
それから理子たちサポートメンバーがコンクールメンバーと顔を合わせたのは、北陸大会の前日のことだった。
学校から徒歩5分にある図書館に併設された小さなホール。
理子は前の人に続いてホールの中に足を踏み入れる。空調が効いていて、炎天下のなか歩いてきた体にはその涼しさが染みる。
なかはステージ部分だけが明るく、客席側は暗いまま。ステージ上にはコンクールメンバーが集まっているが、そのステージの大きさと人数が合っていないのか、ステージが狭く見える。
サポートメンバーがぞろぞろと入ってくるのを見た雨宮先生は1度時計を見て、
「もうそんな時間かぁ。―――では、真ん中の辺りに座ってください。」
雨宮先生は客席側を向いて、来ていたサポートメンバーに座るように促すと、
「午前の練習最後として課題曲と自由曲を通します。その前に少し休憩を挟むので5分後に開始できるように。」
「はいッ!」
そしてコンクールメンバーは席を立ったり、リードを付け替えたりとそれぞれの過ごし方をする。
雨宮先生はステージから下りて、1番近くにいた部員に、
「録音をお願いします。」と録音機を渡し軽く使い方を説明すると、受け取った部員は1番後ろの真ん中の席を移した。
5分後。全員がそれぞれの席に座ったとき、雨宮先生はステージ上のコンクールメンバーを見渡して指揮を構えた。それを見て楽器を構える演奏者、録音ボタンを押す部員。
指揮を振って揃ったブレスと共に始まった曲。それはあまりにも今までと違いすぎて理子は思わず息を呑んだ。
コンクールが行われるようなホールはもっと広く、天井も高い。それでいて床は木製でよく響く。一方、このホールはそんなホールと比べれば規模は半分以下。それに床は音を吸収しやすいカーペット。楽器をやるにはいい環境とは言えないこのホールで圧倒的なサウンドと迫力は十分過ぎるほどだった。何より、ほんの数週間前まであれだけぶつかりあっていた部員達なのに、音程、音色、テンポ感の全てが今は嘘のようにまとまった演奏。あれだけぶつかっても、対立しても、向かうべき方向はたった1つだった、と言うことは嫌でも目の前の演奏で誰もが感じ取った。
県大会で披露された演奏とは見違えるほどレベルを上げた音は、明らかに理子の心を動かした。
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