第21話 幕開け

 そこからの1週間はかなり練習が詰まっていた。どこにそんな集中力があって、体力があるのか疑いたくなるほど切り詰められていた。

「よく飽きないね。毎日何時間も同じ曲やって。」

 サポートメンバーはそんなところを感心していた。


「相変わらずぎっしりのスケジュール。」

「先週も似たような感じだったけどね。」

 理子の手元にあるスケジュール表にはいつ楽器を搬入して、いつから音出しで、いつ本番で、いつ楽器を搬出するのか。びっしりと組み込まれたスケジュール表を眺めて、楽器の搬入口で待機した。そして到着するトラック。荷台が開かれると使う打楽器、管楽器が次々と下ろされていく。理子も受け取ってなかへ運び入れている。積極的に動こうとしても、これだけの人数がいるとどうしても手が余ってしまうのが事実。手が空いてしまった1年生が立っていると、それを見た東先輩は

「1年生動いて!先輩にやらせないで!」

 と大きな声で言ったが、そう言われても手が足りすぎている現状でどうしたらいいのかわからないまままま搬入は終わってしまった。

 搬入された楽器は学校ごとにしていされた楽器置き場へ。打楽器は舞台裏でカバーを外され、組み立てが必要なものは組み立てられていく。

 舞台裏の壁に沿って並ぶ打楽器の待機列は、舞台上の団体が1つ終わって行く度に前に進んで行く。舞台上では落ち着いた雰囲気でコンクールが行われていくのに対して、舞台裏は人が行き交って慌ただしい。


「では、ステージに入ってください。」

 と案内に従って舞台上に足を踏み入れる。理子は打楽器の搬入するとすぐに舞台裏へ捌ける。そして閉められる扉は完全に世界を隔てた。


 全ての演奏が終わり、全員が客席に着いた。

「今日って何校選ばれるの?」

「確か・・・8だったかな?」

「ふーん。」

 そこに鳴り響くのは開演のチャイムと同じもので、その音が緊張感をより大きくする。

「では、ただいまより結果発表を行います。また、銀賞、金賞が聞き取りづらいため金賞の場合のみ“ゴールド 金賞”と言います。プログラム順に発表します。」

 淡々と読み上げていく中年男性の低い声。「ゴールド金賞。」と言われた学校は次々と完成をあげ、それがこのコンサートホールに響く。

「16番。」

 夕星中学校吹奏楽部の番が来た、その瞬間に部員達は祈るかのように手を組む。

「ゴールド金賞。」

 その発表を受けて、完成があがるかと思いきやでてきたのは安堵のため息を漏らした。その反応を見て他校の生徒は、

「あそこは上手いから。」とその反応に納得していた。


「8月に行われます北陸吹奏楽コンクールに推薦する団体を発表させていただきます。プログラム順です。」

 順に学校名が読み上げられていく。


「16番。」

 

 その番号が読まれた瞬間、僅かに完成があがったがそれ以上にその結果に安心した気持ちの方が勝っているようだった。


 学校に戻って来た部員達は合奏室に集められ、

「みなさんお疲れ様でした。ひとまず、北陸大会出場おめでとう。」

 雨宮先生はそう言うと8月のスケジュール表を配った。そこには連日続く練習の文字。

「コンクールメンバーは1日、サポートメンバーは午前での練習になります。そして、北陸大会前の1週間は近くのホールを借りましたので、そこでの合奏が多くなると思っていてください。」

「はいっ!」

「北陸大会まで2週間しかありません。それに2週間後の舞台には石川、富山の県代表が集まります。当然選ばれた学校ですから、今日のコンクールよりレベルが高くなります。どこも全国をかけて演奏を仕上げてきます。全国に行きたいなら、ここからが本当の勝負です。」


 そして、ここからが本当の幕開けだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る