第20話 ただの金賞
7月も終盤に差しかかろうとしていた頃、ハーモニーホール福井には県内の中学生が大勢集まっていた。周りは田んぼばかりのなか、堂々と建つそのコンサートホールは遠くから見てもよく目立つ。
木を基調とした床に、天井には豪華なシャンデリアが吊され、客席正面には立派なパイプオルガンが取り付けられている。
客席は空席も多く、出演校の吹奏楽部ばかりで、他のはそれを見に来た保護者と言ったところ。まだ始まりもしないコンクールの会場に理子は座り、その横で絵美はプログラムを開いた。
「この辺りってどこが上手いの?」と理子に小さい声で聞いてくるが、
「んー。」と理子も返答に困った。それを見て「だよね。」と絵美は再びプログラムを眺めた。
「これ多くない?ま、マードックからの最後の手紙ってやつ。ここなんて連続だし。あとこれも多い。ラッキードラゴン。宇宙の音楽は・・・どこもいないみたい。」
「わかんないけど、人気の曲なんじゃない?」
そんな会話をしているなか、コンクールは幕を開けたと思えば信じられないくらい淡々と進み、短い1日は終わった。
コンクールメンバーとサポートメンバーでわけられたバスにそれぞれ乗り込み、学校までの帰路を辿った。
理子は窓側に座り、その横に絵美は座ってプログラムをただ眺めながら話を始めた。
「あの演奏で代表じゃないなんて・・・。」と絵美は出ていたわけでもないのに落ち込んでいたので、
「今日のは代表権がないって先輩が言ってた。だから来週に向けたリハなんだって。」
「あれでしょ?さんしゅつせいど?みたいなやつ。先輩もあんまり緊張してないなとは思った。でも、あれってなくなったんじゃなかったの?」
「なくなったのは全日。中日はまだあるって。もうすぐなくなるって噂だけど。」
「あのルールって意味分からないよね。3回連続で本大会に出たら、次の年は代表権がないって。それって理不尽だよね?他の部活の大会にはそんなのないじゃん。」
「そうだね。」
「じゃあ、今日のは金賞以上がないってわかってて出たってことかぁ。それって何か嫌だよね。もしかしたら自分たちの方が上手かったのに、繰り上がりで出てる学校があるかもしれないってことでしょ?何かモヤモヤする。」
と絵美は開いていたプログラムを閉じた。理子は窓の外を眺め、流れていく景色を呆然と眺めた。
※中部日本吹奏楽コンクールは規定が改正されています。確認した限り今回の物語で書いたようなルールはありませんでした。ですが、吹奏楽にはこんなルールもあったということも含めて書いていますので、その点はご理解ください。
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