小惑星と流星群

第17話 音度差

 コンクールまで残り1ヶ月を切った。合奏室のホワイトボードにはカウントダウンの数字が刻まれるようになった。

 練習もパート練習と全体練習に加えて、セクション練習というものも始まった。合奏よりも小規模で、パート練習よりは大規模なこの練習。それまで個人で合わせて楽器ごとに合わせていたものが、各楽器同士でも合わせることで、より完成度を高めていく。そのことで浮き彫りになることは山ほどあった。


 クラリネットの部室ではクラリネット、フルート、オーボエが集まってのセクション練習が行われていた。

「じゃあ、今のところ1回楽器ごとに。じゃあ、クラから。」

「はいっ。」

 と始まるクラの連符。できている人が多いが、それでもまだまだ曖昧。まとまりがなく、誤魔化して乗り切っている。そのあとに続くフルートとオーボエの連符。同じ箇所でクラリネットと同じ動きのはずなのに、まとまり方はクラリネットよりも何十倍も上だった。それは誰が聞いても明らかな差で、これが今合わせたところで1つになるわけがないと思いつつも、

「何かある人いますか?」

 吹き終えて詩織先輩がそう聞くと、何か言いたそうな様子の部員がちらほらいるが誰も口出ししなかった。それを見て詩織先輩は

「今はこのテンポがあるので、それにしっかり合わせてください。たまに指が滑って早くなってる人いるので気をつけて。」

「はいっ。」

「じゃあ、今のところもう1回お願いします。」

 そのままセクション練習は時間だけが過ぎていった。


「そう言えば蘭々って丸くなったよね。前よりとげとげしさがなくなったって感じで。前はもっとこう、私に近づくな!って感じ。」

「素直になったからよかったじゃん。」

「相変わらずお嬢様気質なのも、プライド高いのも変わらないけどね。」

 と絵美は笑いながら言うと、目の前を通り過ぎる2年生。その1人はあかね先輩で、右手の手首を引っ張られながら歩き去って行った。

「どうしたんだろう?」

 と絵美が気になっていると、

「クラ全然できてなくない?特に森本さん。全然指動いてないじゃん。あれなら1年入れた方がましだよ?」

 そう話す声が聞こえてきた。怒りと焦りが滲んだ声色で、思わず理子も絵美も立ち尽くす。

「まあまあ、真莉愛まりあちゃんも頑張ってるから。ね?むしろ2年から始めてあれだけできてるのが凄いくらいだから。」

 とあかね先輩は穏やかになだめる声がした。

「これは波乱の予感。」

「そう言ったら変わったオーボエの花純はもっとできてるけど?ソロまでやってるくらいだし。」と大きなため息を1回吐いてから、「あかねも琴音ちゃんもいいよ。できてると思うし。3年だってできてるの詩織先輩くらいだよね?クラは他のパートに比べたら低いって言うか、合奏でも言われること増えてきたし、それで時間だって取られるし・・・。」

 話が一段落したタイミングで理子は「行こっ。」と絵美を促して、その場を離れた。

 部室までの道中、絵美は歩きながら理子に話す。

「さっきの話だと、真莉愛先輩ってもとはオーボエだったってことだよね?」

「そうなるね。だとしたら真莉愛先輩も花純先輩も凄いな。あれだけできるようになったってことでしょ?

花純かすみ先輩なんてイングリッシュホルンでソロまで任せられてるし。」

 理子は部室の扉を開いてなかに「こんにちは。」と入ると詩織先輩が、

「ねえ、あかねちゃん見なかった?」

「さっき、廊下で見かけました。誰かと話してたみたいですけど。」

「そっか、ありがとう。」

 理子は荷物を置くと、そこにあかね先輩はやって来て早々に詩織先輩から、

「あかねちゃん来た。今日って真莉愛ちゃん休み?」

 と聞いた。

「学校には来てましたけど・・・。」

「そっか。」

 1人分だけ空いた場所が埋まることはなかった。


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