第3話 詐欺商法

 カラクリとしては、本を作る金はすべて、著者持ちであろう。ただ、作っても、流通ができるわけではないので、出資者からだまし取った金は、自分たちの、

「自転車操業」

 として使われる。

 彼らは、会員。つまり、本を出したいという人が増えなければ成り立たない。つまりそれを募集するための、広告宣伝費にかなりのお金がかかり、さらに、彼らをその気にさせるための、営業テックニックと、批評が書けるという、文章能力の両方を持った人を雇わなければいけない。

 ということは、その人件費もバカにはならないというわけだ。

 そして、問題として、本を作ったあと、営業活動などしないのだから、在庫になるわけである。その費用も掛かるというものだ。

「自分で出して作った本が、一生日の目を見ることもなく、結局倉庫で埋もれることになるのだが、その維持費を自分たちが出すことになるのだ」

 それを考えると、実に情けないといってもいい。

 まるで、ヘビが自分の身体を尻尾から飲み込んでいっているようなものではないだろうか?

 そんなことを考えていると、あれだけの本を出した人がいるのだ。その中で、

「何かおかしい」

 と思う人だってたくさんいるだろう。

 実際にそう思ったことで、いろいろ調べてみて、結局本が在庫となって埋もれていることを知ると、そこで裁判になるのだ。

「一定期間、有名書店に置く」

 という触れ込みが行われていないという、

「契約違反」

 になるからだ。

 そのことを分かっているので、出版社は、何も言えない。裁判になると、出版社側は不利になる。

 そのうち、このことが、社会問題になると、致命的だ。

 本を出したいという人が現れることで、成り立っている会社が、その信用を根底から覆され、

「詐欺商法だ」

 と言われるようになると、もう、

「本を出したい」

 という人も、原稿を送ってくる人もいなくなる。

 自転車操業は、どこか一つが止まってしまうと、もうどうしようもないからだ。

 一つの会社があっという間に、破産宣告をすると、

「これはいい商売だ」

 とばかりに、ハイエナのようにできた会社も、次々に破綻していく。

 一世を風靡した、

「自費出版業界」

 はあっという間になくなっていった。

 しかも、出資者との裁判沙汰になり、最期は出資者に、最初から金を出させたくせに、「在庫になっている本は、2割引きで買い取れ」

 というのだ。

 もし、買い取れないとすれば、捨てるしかないと言われ、さらには、送った原稿すら返してくれないというとんでもない状態となり、この世から消えていくことになったのだ。

 それを思うと、

「新興産業というのは、よほど気を付けて見ておかないと、ひどい目に遭ってしまう」

 ということになるのだ。

 もちろん、詐欺商法と呼ばれるのは、これ以外の業界でも無数にある。ただ、根本的なところは一緒だろう。

「いかに、こちらを信用させ、相手に金を出させるか?」

 ということばかり考えるので、防御までは考えていないだろう。

 もっとも、これだけひどい商売をしているので、防御など、そもそもないのかも知れない。

 だとすれば、

「危ないと思えば、いつうまく逃げることができるか?」

 ということであり、引き際が問題なのだ。

 それができなかったところは、社会問題だけを残して、

「詐欺商法」

 という悪名を残して消えていくしかないのだ。

 それを考えると、消えてなくなる産業には、いくつかの悲惨な障害が多いということであろう。

 勝沢は、絵を描いていて、そこまでひどいことはなかったが、果たして、

「自分が小説を書いているとすれば、騙されなかったと言えるであろうか?」

 と、考えるのだった。

 もっとも、勝沢が絵を描くようになったのは、自費出版業界がすたれてからしばらくしてからのことだった。その間に何があったのか分からないし、この話を聞いたのは、人から聞いたからだった。

 それが、一人の風俗嬢だったというのは、何か皮肉な思いがあった。

 その風俗嬢には、何度か通っていた。顔が好みというのもあったが、性格が自分に合っていたからだろう。時々、何か奇抜なことを言い出すと思うと、それも次第に慣れてきて、

「お兄さんも、面白い」

 と逆に言われるくらいになってきた。

「それはこっちのセリフだよ」

 というと、ペロっと舌を出して微笑むのだった。

 その姿を、

「ギャップ萌え」

 というのだろうが、そんな言葉も、風俗に通っているうちに教えてもらえるようになったのだ。

 会社では、真面目な上司を演じているので、最初は風俗に通っていることを隠していた。ただ、同じように通っている人もいるようで、後輩なのだが、言わなくてもいいのに、

「先輩も通っているんですね」

 と言われ、

「見られたのなら仕方がない」

 とばかりに、

「ああ、見られていたのか」

 といって、正直に話したが、下手に否定する方が却って、後ろめたくなり、きっと聞いた方も、

「変なことを聞いてしまったな」

 と思うのだろう。

 お互いに気まずくならないで済むのは、

「こういう時には素直に認めるのがいい」

 ということであり、

 そんな状況を、知ってか知らずか、まわりは誰も気づかない。

「無口な上司」

 という印象を保っているので、部下に疑われることはないだろうと思っていたが、後輩がいうには、

「先輩のような性格、下手すれば、バレバレですよ」

 というではないか。

 彼は、結構口が堅かった。自分から、

「俺、風俗通いしてる」

 と、公言するほどのチャラ男だといってもいいのに、人との約束は守る男のようで、本当は見られた時、

「どうせ、バレるんだろうな。いずれはバレることになるんだから、今のうちにバレておくのも、悪くはないだろう」

 と思っていた。

 しかし、世間は広いようで狭いが、狭いようで広くもある。彼に見られたといってもその時くらいで、あとは、風俗街で会うこともなかったのだ。

「行く店のコンセプトが違う」

 と言えばそれまでなのだろうが、会っても不思議はない。

 見られることがあるくらいなので、それも当たり前のことではないだろうか?

 ただ、彼がいうには、

「俺は結構いろいろなコンセプトの店に通うからな」

 といっていたのだが、その気持ちは勝沢にとって、分かる気もするが、完全に分かるというわけではない。

「俺なら、最初はいろいろ行くかも知れないが、それは自分に合う店を見つけたいという意味で通うだけであって、一つに絞ると、結構通う気がするんだよな」

 というと、彼は、

「それって、飽きてきませんか? 自分の好きなお店であったり、財布に似合う店をいくつかピックアップしておいて、そこを、ローテーションで回せば、飽きることはないんじゃないでしょうか?」

 という。

 なるほど、彼の言い分は、もっともである。確かに勝沢も昔はそういう通い方をしたものだった。

 しかし、嬢に対して、嬢が湧くというか、まるでダジャレのようだが、まさにそんな気分になった。

 そして、オキニの女の子には、足しげく通ってしまうのだ。一度気に入ってしまうと、1カ月と空けずに通ってしまう。そして、それがルーティンになりかかるのだった。

 だが、そうならないのは、

「飽き」

 というものが来るからだった。

 こんな思いは、若い頃にはなかった。少なくとも、20代ではなかったことだ。他の人に言わせると、

「若い頃の方が、飽きやすいんじゃないですか?」

 というだろう。

 実際に待合室でたまに一緒になる人と仲良くなったのだが、その人はまだ20代、

「俺は飽きっぽいからな」

 というのだった。

 飽きっぽいということになると、勝沢も人のことはいえなかった。

 特に食べ物ではひどいもので、2,3回しか食べていないのに、

「飽きた」

 というものが結構あったりした。

 しかし、逆に、

「本当に好きなものは飽きない」

 といえるだろう。

 学生時代のかつ定食を、毎日続けてもいいと思っていた。一年続けても、飽きが来なかったくらいだ。

 だから、同じ食べ物に対して、勝沢のことを、

「あいつは飽きっぽい」

 という人もいれば、

「いいや、あいつは、毎日でも好きなものは続けるタイプだ」

 と、両極端な意見に分かれるだろう。

 しかし、そちらも間違いではなく、間違いでもある。勝沢は、果たして自分のことを、どういう性格なのだと思っているのだろうか?

 二重人格だともまわりから結構思われているようで、

「なるほど、俺は結構相手によって、性格を変えるからな」

 というのだった。

 性格を変えるといっても、両極端というわけではなかった。

 対照的な性格であれば、却って、

「ありえる」

 と言われるのかも知れないが、会話がうまくいっていなければ、分からないことではないかと思うのだった。

 そんな勝沢の性格を、意外と風俗仲間の後輩は分かっているようで、

「だから、僕とは、風俗のお店で会うことはないんですよ」

 という。

 この時の、

「だから」

 というのが、どこからくるのかがわからなかったが、彼の言いたいことは、勝沢なら分かると自分で思っているので、そこにわざわざこだわることもなく、話を合わせているのだった。

 そんな時、ちょうど、

「オキニ」

 になっていた女の子がいて、ある日、彼女が寂しそうな顔をしていたので、思わず、

「どうしたんだい?」

 と聞いたことがあった。

 すると、女の子は、急に泣き出しそうになり、思わず狼狽えた勝沢だったが、

「お兄さんは、優しいから、ついつい甘えてしまうのよ」

 といって、目から流れる涙を拭おうともしなかった。

 そう言われると、男冥利に尽きるというもので、

「風俗嬢と客」

 という感覚ではないことに気づかされるのだった、

 それまでも、彼女と一緒にいると、

「風俗で遊んでいるという感覚じゃないんだけどな」

 と思う、

 それだけ、彼女がすれていないというところを好きになったのだと思ったが、逆に、彼女には飽きを感じないという証拠でもあると思うのだった。

 彼女の話を聞いてみると、

「私、詐欺に騙されたの」

 というではないか?

 どういう話なのかというと、彼女は、以前から小説を趣味にしている、文学少女だったという、その彼女が騙されたのは、かくいう、例の、

「自費出版社系の会社」

 だったという、

 短大に進んだ時、実は、作家を目指していたという。

「私、作家を目指して、芸術の専門学校に行ったんだけど、その時にね、ちょうど、自費出版社系の会社が全盛期の時で、何度か作品を送ったことがあったんですよ。それで、あなたの作品は実に素晴らしい、だけど、うち側だけの出資というのは危険なので、もしよかったら、共同出版という形にしませんか? せっかくの才能を今のまま眠らせておくのは、もったいないじゃないですか? なので、出版社の営業の人を信じて、本を出してみることにしたんですよね」

 というではないか。

 それを聞くと、

「よくそれで、お金があったよね?」

 と聞くと、

「いや、自分の手持ち金額だけで、出せるわけじゃないじゃないですか? 出版社の人は、親にでも出してもらえばいいなんて簡単にいうんですが、そんなことができるわけがない家庭事情だったので、本当はその時、営業の人に対して不信感を抱いたはずなのですが、逆らえなかったんですね。やっぱり、信じようという意識が強かったんでしょう。そう思うと、今では、その人のことを信じてしまったことが悔しくて、まあ、そのおかげで、世の中はきれいごとばかりではないと思い知らされたというのもあったんですが、だけど、その代償は大きくて、借金を背負ってしまったんですね。それで、紆余曲折の上で、今のこのお仕事をしていることに繋がったんですけど、さっき、その時のことをちょっと思い出してしまったんです。さっきも言ったように、普通の人が相手だったら、私はこんな弱いところを見せないんですよ。でも相手がお兄さんだから、私は安心して話ができたということになるんでしょうね」

 というのであった。

 それを聞いて、感無量な気持ちになった勝沢だったが、それを聞いているうちに、

「あれ? 待てよ?」

 と感じたのだ。

「借金って。そんなに高かったのかい?」

 と聞くと、

「いいえ、借金としての部分は、すでに完済しているんですよ。元々、そんなに高いのには手を出せないと言っていたので、安い方のプランにしてもらったんだけど、単位としては、百万円以上ですからね。普通に仕事をしていたのでは、成り立たない。もちろん、誰かに頼れるわけもないお金だと思っているのもあって、風俗の世界に、足を突っ込んでしまったんです。」

 という。

「完済したのに、戻ってきたんだ」

 と聞くと、彼女の気持ちも分からなくもないと思った勝沢は苦笑いをするしかなかった。

「完済したのは、2年前だったですかね、その時は別のお店で、私も目標金額まで稼げたので、これで風俗は卒業できると思ったんです。店の方でも、他の女の子も、お客さんも卒業っていうと分かってくれたんですよ。お客さんの中には寂しいといってくれる人もいましたけど、そのうちに、私のことなどすぐに忘れるんだろうなと思うと、却って私の方が気が楽になったくらいですね」

 といった。

 しかし、彼女は今も風俗嬢を続けている。そのことはさすがに言及できないと思って、わざと聞かないでいると。

「私ね。きっと、このお仕事が好きなのよ。男性に奉仕をするということへの喜び、そして、奉仕をすることで、男性が喜んでくれる、普通の会社だとそんなことはないの。もちろん、こういう仕事をしているって分かれば、昼職の会社にはいられなくなるのは分かり切っていることなのね」

 という。

「君は昼職をしているということなのかい?」

 と聞くと、

「ええ、そうね。私に限らず、昼職をしている子は多いわよ。特に何かの目標を持っている子とか、いたりすればね」

 というではないか。

「君はどうして、また戻ってきたんだい?」

 と聞くと、

「私もあのまま引退すればよかったんだけど、人から慕われる気持ちを一度覚えると、忘れられなくなってね。昼職はせっかく就けたお仕事だということもあって、できれば、両立させたいの。その気持ち、わかってくれるかしら?」

 というではないか。

「それは、どういうことなんだろう? もしだけど、どちらかしか、体力的に無理だとすれば、どちらを選ぶのかい?」

 と聞くと、

「それは正直難しい質問ね。このお仕事を続けていきたいという気持ちはあるんだけど、昼のお仕事も大切なの。今のところ、目標があるわけじゃないんだけど、その目標のための勉強だと思うと、辞めたくはないし、かといって、夜のお仕事で、目標を達成させるためのお金が必要だと考えると、捨てがたいしですね。でも、どちらかといわれれば、こっちを辞めるでしょうね。そして、ほとぼりが冷めた頃にまた、このお仕事を始めると思うの」

 という。

「じゃあ、ほとぼりが冷めてからまた初めても、また見つかった時は?」

 というと、

「その時は昼職を辞めると思うの。だって、二度も昼職でバレたということは、その仕事が自分に合っていないかも知れないということでしょう? もし、このお仕事に対して、気持ちが変わっていなければ、きっと、昼職の方を辞めることになると思うわ」

 というのだ。

「なるほど」

 と、一応の納得をした。

 ということは、基本的には、

「夜のお仕事を辞めたくはない」

 ということだ。

 彼女にとって、夜の仕事は、すでにお金のためということではなくなっていて、辞めるとすれば、

「昼職のため」

 と思っているのだろう。

 しかし、それでも、また昼職から妨害を受ければ、

「今度は昼職を犠牲にしてでも、このお仕事を辞めない」

 と思っているのだ。

 昼職において、仕事をこなすということは、どうしても、夜の仕事に関わってこないとはいえない。

「人に知られてしまったらどうしよう?」

 という考え、これは性癖を知られるためではなく、知られたことで、会社を辞めなければならないということだ。

 つまり、会社を辞めることになりさえしなければ、まわりを無視してでも、続けられるという気持ち現れなのかも知れない。

 それこそ、彼女の覚悟というものであり、何かを天秤に架けようとすると、その先に見えてくるものがどういうものか、分かるというものではないだろうか? 

 そもそも、昼職と夜の仕事を天秤に架けるということがおかしいと思っている人が多いだろう。それは、借金などの、のっぴきならない理由がなければ、どちらを辞めたとしても、あくまでもその人の都合だということだ。

 昼職を辞めれば、夜の仕事に重きをおいていて、その理由がお金なのか、承認欲求が満たされるからなのか、だということだ。

 昼職ということであれば、

「一度足を洗った業界とは、手を切る必要がある」

 ということなのに違いないと思うことだろう。

 だが、彼女はどちらも辞めていない。彼女にとって、いや、誰にとっても、この二つの両立はきっと難しいであろう。そんなことは分かっていながら、それでも必死にしがみついているのは、

「風俗という仕事に、自分なりの誇りを持っているからに違いない」

 と思った。

 だが、もう一つ、

「結局、風俗という仕事を辞めることができないというのも事実であり、その思いがあるからこそ、広色との掛け持ちが、

「風俗という仕事に、自分なりの誇りを持っているからに違いない」

 と考えているといっても過言ではないだろう。

 ただ、彼女は、以前、小説を書いていて、詐欺商法に引っかかったことで、借金が原因で、この仕事に就くことになった。

 ただ、

「小説を書いていて、いくらコロッと騙されたとはいえ、本を出したいと思うほど、必死になって書いていたのだろうが、その割に、借金でこの世界に飛び込んだといっていた気持ちだけが表に出ていて、そもそもの情熱について、深くは語っていなかった」

 ということを思い出した。

 確かに必死で書いていたとしても、それが原因で詐欺に遭ってしまったのだったら、それをわざわざ自分で思い出そうというのも酷なことである、

 だが、彼女はきいたから話したわけではない。自分から身の上話として話してくれたのだった、

 きっと、人に話すことで、自分の置かれている立場を、再認識し、残りがどの時でどれくらいだったのか分からないが、自分に力を振り絞るために、話してくれたのだろう。

 だが、勝沢は、

「彼女は、ひょっとして、この俺のことが好きだったのではないだろうか?」

 とまるで、自惚れに近いかのような思いを抱いていたのであった。

 そのせいもあってか、他の風俗嬢と、彼女との間には、別の何かがあると自分で思っていた、

「あなたになら、話しやすい、他の人には話せないことも、平気で話せてしまう」

 といっていたのだ。

 その言葉の裏に、彼女の本心が隠れているのか、それとも営業トークなのか、正直分からない。

 だが、彼女を見ていると、何か追いかけているものが、勝沢の目にも見えてくるような気がしていた。具体的には分からないが、どこに、その思いが向いているのか、その先に、何かは分からないが存在しているのが分かった気がした。

「そうだ。俺も一度、彼女に愚痴を聞いてもらったことがあったっけ」

 というのを思い出した。

 その内容は確か仕事のことだっただろう、その時、自然と勝沢は自分の口から、

「どうしてなんだろうね、君にだったら、何でも話せてしまう気がするんだ」

 といっていた。

 ただ、これは半分、

「風俗嬢のような、自分の普段の表の世界とは、まったくかかわりのない人間だからこそ、何ら含みも偏見もなく、想像することができて、ひょっとすると、俺が想像したような回答を与えてくれるのかも知れない」

 と感じたというのが、本音なのかも知れない。

 彼女も、勝沢の中に、勝沢の愚痴を聞いてあげた時、自分が母性本能のような、穏やかな気持ちになって聞けたことを思い出したのだろう。

 本来なら、人尾愚痴を聞いてあげるほどの精神状態などであるはずもないのに、実際に話を聞いてみると、落ち着いてきけた。

「この人にだったら、あの時、彼が私に話をしてくれた時のような気持ちに、この私が慣れるのではないだろうか?」

 と感じたのだ。

 詐欺師に騙された気持ちを忘れたわけではないだろうが、その思いがあるだけに、勝沢に対して、従順な気持ちになれたのではないだろうか?

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