第240話 想定外
外は既に暗くなり始めている。日は沈み、夜の訪れを告げている。
アレックの言っていた通り外は涼しく、一番過ごしやすい気温だ。散歩をしてリラックスするのに最適である。
「ベル」
「ん?」
「僕が君を散歩に誘ったのは、嫌な予感を感じたからだ」
「え?普通に散歩しに来たんじゃないのか?」
てっきり、涼しくなった外に出て外気に当たろうという意図で誘われたと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
アレックの表情は、決していいとは言えない。寧ろ険しい。
「それで、嫌な予感ってなんだ?」
「『九星』の使者と接触したことで、君の居場所が割れたかもしれない」
「……」
薄々、俺もそんな気はしていた。
さっきの事件で使者二人を始末できていれば良かったものの、運悪く逃がしてしまった。俺の情報が伝わってしまった可能性は否めない。
使者からのターゲットが俺じゃない可能性を考えていたのは、今アレックの言った可能性を少しでも否定したかったからだ。
「この学院への襲撃の可能性も考えておかなくちゃならないと思うんだ」
「……ああ」
「僕がクレアの魔術学校に通っていた時にも、使者が襲撃に来たんだ。その時は『剣聖』が駆けつけてきてくださったけど、今回はそういう人間が周りに居ない」
「……ごめんな、アレック。俺と再会したことで、また面倒事に巻き込むことになって」
「君は悪くない。巻き込まれた面倒事を君やエリーゼ達と一緒に乗り越えるのが、今の僕の生きる意味だ」
ああ、もうなんか、泣きそうだ。どうしてこんなに良い奴なんだろうか。
近いうちに、襲撃がある可能性も考えなければならない、というわけか。そんなことを部屋で言ってしまったらパニックになりかねないから、こうして俺だけを外に呼び出して話したのだろう。
現在、『九星』は七人。『海王』と『天王』は撃破済みであるため、上から順に『太陽神』、『水神』、『金神』、『地神』、『火神』、『木神』、そして『土神』。『王』から『神』になっているのを見るあたり、ここからレベルが違う強さになるのかもしれない。
最下位の『海王』ですら、片腕のみの『剣聖』とどっこいだった。『天王』の時はランスロットが不意打ちで一撃で仕留めたが、本当に強かった。
俺だってあの時から少なからずパワーアップした。学院内での大会で一位に輝くほどの魔法の復調ぶりも見せることが出来ているし、冒険者時代の俺よりも格段に強くなっているはずだ。
だが、『九星』クラスの敵が相手となってくると話が変わってくる。俺一人では歯など立つわけもなく、この学院の総力を持ってしても『土神』にすら勝てないかもしれない。
それほどまでに、『最強』で『最恐』な組織なのだ。
「居場所が割れていようが関係ない。襲ってきたら迎え撃つまでだ」
「……君は心強いね」
アレックはふっと微笑む。
守りたい、この笑顔。
「まあ、伝えておきたかったことは伝えられたし、戻ろうか」
「そうだな。お腹空いたしーーー」
俺の頬を、何かが掠めた。背後からだ。
「くっ……」
「ベル!?」
頬が焼けるように痛い。切り傷を負うと焼けるような痛みが生じるが、その類ではない。
もっと、内側から焼けるような痛みだ。
「ーーー君がかの有名なベル・パノヴァくん?」
柔らかな男の声。それは特待生の授業の中でも聞いたことはない。
ストーカー疑惑のある俺を攻撃しようという意図での行動なのだろうか。だとしたら一般生徒の中の誰かか?ストーカーの噂を流し始めたやつとか。
「……誰だ」
「ーーー名前なんて知る必要ない。どうせ君はすぐに殺すからね」
俺の鼓膜が僅かに震え、金属が抜かれる音を聞いた。
アレックを蹴飛ばしたついでに飛び上がり、危機を逃れる。
しかし、一難去ってまた一難。
「無駄な抵抗はしない方がいいよ。楽に逝かせてあげるからさ」
「『炎弾』!」
これまでに見た事のないスピードで俺に襲いかかる、赤い髪に白色のメッシュの入った男。
その両手には、双方に剣が握られている。
ーーー双剣使い?
男は俺の放った魔術をその剣で軽々跳ね除けると、空中で更に加速して俺の寸前まで迫る。
一瞬にも満たない、『一刹那』。俺は全く対応出来ずに、男に首を捉えられかける。
しかし、すんでのところで下から氷流魔術が飛んでくる。アレックの追撃だ。
「小細工をしたところで無駄だ」
いや、今確かにアレックの魔術はこいつを直撃したはずだ。そして、横に吹き飛んだはず。
なのに、どうして全くもってノーダメージなんだ?
肉体どころか、服にすら傷は入っていない。一体どうなっている?
赤髪の男は双剣を振り回しながら、なおも俺に飛びかかってくる。
俺は体勢を変えて地面に突っ込むように加速して、無事に着地。もちろん男は俺を追ってくる。
「ふっ!」
俺は右脚に魔力を注ぎ込み、『雷脚』をお見舞いした。
俺と男の周りに衝撃波が走る。地面は、俺たちを中心としてへこみ、亀裂が入った。
上がった土煙が晴れてきたところで、俺は男を見る。
徐々にはっきりと見えてくるシルエットに、俺は言葉を失った。
「……!?」
完全に一撃が入ったと思った。だが、またしても男はダメージを受けていない。
「……もうこの際だし、名前だけでも覚えて逝ってね」
「……」
「ーーー僕は『九星』第六位、『木神』ジュピタだ」
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