第238話 犬系獣族の少女
『お腹空いた』
『ちょっと待ってね』
さて、問題はこの子をどうするかだ。このまま放っておけばまたああいうトラブルに巻き込まれかねないし、かといって引き取ったところでどこで面倒を見るのか。
この子に話を聞いたところ、両親がどちらも亡くなってしまい、それからずっと一人でいるらしい。盗みを繰り返し、盗んだものやお金で生計を立てているんだとか。
そんな中、いつものように盗みを働いていたところを見つかってしまい、酷い暴力を受けたのだ。
『どんな理由があっても、人の物を盗むのはダメだ』とキッパリと言っておいた。
しかし、口でそう言い聞かせ、それに頷くのは簡単だが、実際、今のこの子の状況で全くそういう悪行をせずに生活をしていくなんて到底無理な話だ。
なにせ、この子はまだ幼く、更に人間語もほとんど喋れないからな。
出来ることなら引き取りたいが……
「ベル。この子を連れて学院に戻って、校長に相談しよう」
「杖はいいのか?」
「ああ。杖なんかよりもこの子の命の方がずっと大切だ」
なんだかんだ、アレックは情け深いんだよな。自分のことよりも他人のことを優先しがち。本当に誰かさんをいじめていた少年と同一人物なのだろうか。
アレックもこう言っている事だし、一旦学院に戻って相談するとしよう。
一時間ほどかけて、学院に戻ってきた。そして今、校長室の目の前である。
「……失礼します」
「どうぞ」
アレックが扉を三回叩き、入室許可を得る。それに続いて、俺も入室する。
「……おや、その怪我はどうしたのかな?」
「少しトラブルに巻き込まれまして」
「詳しく聞かせてもらってもいいかい?」
「……ええ」
校長に、先程起きた出来事の一部始終を話した。
俺たちが助けに行かなければ、もしかするとこの少女は死んでいたかもしれない。俺たちの選択は正解だっただろう。
気になるのは、奴らの行方だ。またいずれ来るかもしれない。
何より、あいつらは使者だ。数少ない、俺にとっての明確な敵。
人を殺すのを好むほど悪趣味ではないが、『九星』の関係者は問答無用で殺さなければならない。
「なるほど。それで、その犬系獣族の少女を保護したということだね」
「その通りです」
「もちろん、面倒は見てやるんだよね?」
「ええ、もちろん……え?いいんですか?」
「この学院では、各部屋に一人だけ奴隷を置くことが許可されている。その子は見た感じだと奴隷という訳ではなさそうだけど、特別に私が許可しよう」
まさかこんなにあっさりと許可を貰えるとは。これで一安心だ。
俺たちはお礼を言って、校長室を後にした。
『君、名前は?』
『ライナ』
「へえ、その子はライナっていう名前なのか」
「流石に名前くらいは聞き取れたか」
見る限り、ライナは九歳くらいだろうか。犬系獣族が見た目に反して年齢が上であるなんてことがなければだが。
『人間語は喋れないの?』
「ちょと」
「ちょとか」
「ちょとちょと」
アカン。可愛い。
いや、別にそういう趣味ではない。ロリコンとか、そんなんじゃない。
ああ、ほら、分かるだろ?小さな子を見ると微笑ましくなる、ああいう『可愛い』だ。決して、断じて、そういう趣味は持ち合わせていない!
「アレック、医務室に行かなくても大丈夫か?」
「いむしつ?」
『医務室っていうのは、俺たちみたいに怪我をしてしまった人が休む場所だ』
『なるほど』
人間語になるとカタコトなのに、獣族語になると急にネイティブになるのがまた面白い。
どうやら医務室に行く必要は無いようだ。普通に歩いているし。
俺たち……じゃなくて、アレックは治癒魔術を使えるから大丈夫だろう。
ライナをおぶりながら歩き続け、部屋に着いた。
「帰りました」
「おかえりー……って、二人ともどうしたのよ、その怪我!それにその子誰?!」
「詳しく説明しますね」
校長に説明したのと同じように、ロレッタ達にも詳しく説明した。
「『九星』の使者って……よく生きてたわね」
「相手はそれほどの手練ではなかったみたいなので。それに、幸い、死人は出なかったですし」
「無事でよかった、二人とも」
ともあれ、何とか無事に帰ってこれた。
それに、ルームメイトが一人増えたようなものだし……
「か、可愛い!」
「な、撫でてもいいかな?」
『撫でてもいいか、だって』
「どぞ」
短い『どぞ』を合図に、ロレッタとアーシャはライナに飛びついた。
確かに、撫でてみたくなるよな。
可愛らしいケモ耳見るだけでヨシヨシしてあげたくなる。
「ベル、獣族語が話せるんか」
「小さな頃から少しづつ勉強してたおかげでマスターできました」
そうだ。俺は今、バイリンガルなのだ。日本語とスペイン語が話せるみたいなもんだぞ。
ちなみにこの世界の二大言語は人間語と魔族語。その他には、獣族語や竜人語なんかもある。
ランスロットは竜人族だったが、竜人語を話しているところを見た事がない。全く違和感を感じさせないくらい流暢な人間語を話していた。
竜人語は話せないから、また勉強したいな。次はトリリンガルを目指そう。
『た、助けて』
『いっぱい可愛がってもらえ』
「あぅ」
その後ナディアも戯れに参加し、しばらく戯れが続いた。
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