第236話 トラブルシューティング

 ーーーベル視点ーーー


「どうだ?目当てのものはあるか?」


「うーん……どれも良い杖なんだけどなぁ……」


 俺は現在、アレックと共に敷地外へ出かけている。俺は別に欲しいものは無いんだが、アレックが杖を買いたいと言い出したから仕方なく着いてきた。


 元々アレックは、杖を用いて戦うことを好まなかったが、大会を経て杖が欲しくなったらしい。まあ皆持ってたし、欲しくなるのも無理はないか。

 いや、皆が持っているから欲しくなるってのはちょっと子供すぎやしないか?


 杖を持たずとも、アレックは十二分に強い。俺も杖は基本的に使わないが、それは俺にとって杖は少々お荷物になってしまうためである。

 エリーゼにもらった杖をあのでっかい蛇に腕ごと医師にされてしまったのを思い出した。嫌な思い出っ。


「次の店に行こう」


「おう」


 もうこの店で四つ目だ。こんなに回らないと見つかんないもんなのか?エリーゼは絶対にこんなに時間をかけていないと思うが。

 ……エリーゼは真っ直ぐな性格だから、きっと最初に見たものを買ってくれたんだろう。アレックとは性格が真逆と言ってもいいからな。


 それにしても疲れた。普段から結構運動はしているのに、こういう時にたくさん歩くと疲れるのはなぜなのだろうか。


 昼食はちょうど一時間前くらいに済ませておいたためお腹は空いていないはずだが、色んな店から漂ってくる食べ物の匂いが腹の虫を呼び覚ます。


「……ベル」


「ん?どした?」


「……トイレ行ってくる」


「何だよ。早く行ってこい」


 何でそんなシリアスな顔してトイレ宣言してんだよ。トイレをする時すら真面目なのか?

 まあよく見たら顔が青くなってたし、腹下したんだろ。


 それにしても、この街は広い。


 ケントロン大陸の中で最も大きい都市の一つである『キノ』。剣神道場のある『セトル』と合わせると大陸の約半分になるらしい。

 ケントロン大陸は、中央大陸、天大陸、そしてデュシス大陸、ボレアス大陸、魔大陸のどの大陸にも面していない、オーストラリアや日本と同じ『島国』。大陸自体の面積も世界で最小である。


 今思えば、オーストラリアとか日本とか懐かしいな。


 この世界に転移して来たのは、この世界の俺が八歳の時だった。今年の四月で、俺は十五歳になる。この世界に来て七年も経つというわけだ。


 もうあの頃に俺が殴りまくった不良少年達は社会人になっているだろう。まああれだけ性格してるから、もしかしたら職なんて無いかもしれないが。


 ……それにしても小腹がすいたな。古き思い出を思い起こすために脳を使ったから糖分が必要だな。うん。


「ただいま」


 トイレから戻ってきたアレックに、「おう」と返したあと、食べ物を売っている店を見つけるために再び歩き出した。


 この世界の食べ物はとても美味しい。だが、やはり日本食に勝る食べ物は存在しない。


 俺は料理が得意だったから、素材さえあれば日本食を皆に振る舞いたいな。今度チャレンジしてみよう。


 やはり大きな街だからか、人通りがかなり多い。小さな頃にエリーゼと二人で訪れたグレイス王国の『ミスカ』に比べても遜色ない。


「ーーーベル」


「今度は何だよ」


「……あれ、止めた方がいいかもしれない」


「あれ?あれってどれだよ……」


 アレックが指をさす方向へ目を向けると、何やら誰かと誰かが揉み合っているのが見える。


 久々の敷地外外出なのにトラブルに巻き込まれるのは嫌だなぁ……道を変えるか?


 ……いや、よく見てみろ。


「あんなに小さな女の子が……」


「行こう」


 アレックと俺はその場を駆け出し、急いで現場へ向かった。


「ーーーおい!返せクソガキ!」


『嫌だ!』


 ん?獣族語か。それも犬系獣族のものだ。


 猫系獣族は人間語を話せるが、犬系獣族は独自の言語で会話をする。俺が言葉を理解できるのは、実は小さな頃から少しづつ勉強していたからである。


「ちょっと!何があったんですか!」


「このクソガキが俺たちの財布を盗みやがったんだ」


「だからってここまで……」


 犬系獣族の少女は、地面に横たわったまま何かを抱いている。きっと、こいつらの財布だろうな。


 顔は血だらけ、アザだらけ。この男二人組、相当な強さで相当な時間殴ったり蹴ったりしていたんだろう。


 この女の子も、こんなになるまで守り抜こうとしていたということは、相応の理由があったのだろうが……


「相手は女の子ですよ。それも子供なのに」


「女だから何だ?子供だから何だ?俺たちは社会の厳しさってもんを教えようと思っただけだ。ちと教育が足りてねえみたいだからなぁ」


「ーーー教育が足りてないのは、お前たちもだろう」


「……あぁ?」


 横に立っているアレックが口を開き、それに反論した。ごもっともです。


 屈強そうな男二人は形相を変えて、今度はアレックを睨みだした。


「テメェもこのガキみたくボコボコにされてぇのか?」


「やれるものならやってみろ」


「……ちっ。舐めた口ききやがって!」


 二人のうち一人がアレックに殴りかかる。

 もちろん、アレックは一般人のパンチをそう簡単に食らうはずもなく。


「『氷壁アイスウォール』」


 アレックと男の間に生まれた氷の壁は男のパンチをあっさりと阻み、その拳は壁に激突した。


 男は声を上げて痛そうな顔をする。こりゃ痛そうだ。


「……クソッ。隣のガキからやるぞ!」


 え、急に俺かよ。


 まあ、俺もそう簡単に食らうはずもなくーーー、


「ゴボェッ!」


 簡単に食らいました。


 痛ってぇぇぇぇえ!

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