第234話 思い出し泣き

「ぁ……ぁ……」


 交流戦での勝利を目標に掲げてから早いもので一週間。俺のメンタルはかなりキテいる。


 基本的に、アレックやロレッタ達以外との会話はない。

 唯一の救いは、ナディアがあの日以来、少しだけ口をきいてくれるようにようになったことだ。俺が話しかければ普通に話してくれる。あちらから話しかけてくることは無いが……


 授業を乗り越えればまだマシだ。アレック、ロレッタ、アーシャ、ナディアの四人と校庭のベンチに腰掛けて談笑を楽しんだり、交流戦に向けての練習などを行ったりする。周りからはまあ割と冷たい目で見られるが。


 あまり考えたくないのだが、この一件、誰かが根回しをしている可能性がある。確かこの考えは少し前に俺の頭に浮かんだはずだが、すぐに撤回した気がする。


 だって、おかしいじゃないか。被害者であるはずのロレッタとアーシャが、加害者であるはずの俺と一緒にいるのにも関わらず、未だ罪は晴れない。そういう、人々の頭を混乱させる魔術や呪いがあるのだろうか?


 まあ、根回しをしていようがしていなかろうが、結果は同じだ。どうせ弁解の余地なんて無いし、もう俺のこの噂は学校中に広まってるだろう。

 先生の耳に入って俺が呼び出しを食らうのも、時間の問題だろうな。

 いや、その方が都合がいいか?先生に弁解することが出来れば、疑いは晴れるかもしれない。


 ま、流石に先生がいる所の周りでそんな噂話なんてするほど馬鹿じゃないだろうし、望みは薄いか。


「そういえば、ベルは使える上級魔術が増えたんじゃないか?」


「増えたって言っても、二つだけだけどな」


「飲み込みが早いのは流石ってとこね。一つの上級魔術を覚えるのに一、二週間くらいしかかからないし」


 俺は選抜大会の準決勝・決勝で用いた、草流上級魔術『草刃』以外の上級魔術を二つほど習得した。


 水流上級魔術の『水龍アクアドラゴン』、火流上級魔術の『炎弾丸フレイムブレット』。前者は特級魔術みたいな名前してるし、後者は中級魔術みたいな名前をしているが、どちらも同じ上級魔術である。


 以前のような力はまだ戻らないが、ロレッタの言う通り飲み込みは早いらしく、それでいて色んな属性の魔術に手を出すことが出来る。魔術の才能は健在であるらしい。


 使える魔術は多い方がいいし、階級は高ければ高いほどいい……と思うかもしれないが、後者はそういう訳では無い。実際、アレックのよく使う『氷弾』は中級魔術。だが、その威力と弾速は、並の魔術師の放つ魔術とは桁違いだ。


 俺も単純に魔力量が多いが故に、結構な威力の魔術が撃てるが、基本的にアレックのような遠距離攻撃はしない。俺には稲妻のように速く動ける『雷脚』という技があるから、近距離戦闘向きなのだ。


 懐かしいなぁ。火流特級魔術の何とかっていう魔術と、『稲光』を合わせた合技の『火雷拳』なんて技をよく使ってたっけか。あの威力は、小さな俺の体からは想像もできないくらいのものだったのをよく覚えている。


 あの技には思い入れがある。エリーゼやリベラ、エルシアとの思い出が蘇るからな。


 あー、『水雷刀』なんてのも使ってたな。この二つの合技を使って、色んな敵を倒してきたな。


 右手に魔力を注ぎ、『火雷拳』を試してみる。当然、俺の右手には何も起きない。寂しい気持ちになりますねぇ……


「先輩たちにも、昔のベルを見せてあげたいです」


「きっと、比にならへんくらい強かったんやろなぁ」


「もし当時のままの力でベルがこの学院に入学していれば、きっと入学して三日でこの学院のトップに君臨していますよ」


 結果としてトップにはなったがな。確かに、六つの流派の特級魔術を完璧に使いこなすことが出来ていた当時の俺なら、天下をとっていただろう。


 『魔女』ロトアの息子だぞ?天才からは天才が生まれるに決まっている。

 あぁ、実の息子じゃないんだったわ。


 ……なんか、色々思い出すな。エリーゼたちとの思い出や、ロトアから教わった思い出。そして、ルドルフとの思い出も。


「えっ、なんで泣いてるのよ」


「そんなに昔の力が恋しくなったのか?」


「あっ、あれっ……?おかしいなぁ……」


 そんなに涙腺がもろくなるほど年はとっていないはずなんだがな。今は亡き父との思い出、生死不明の友人たちとの思い出なんかがフラッシュバックすれば、涙の一つや二つくらい出る。

 昔の力が恋しくなったのも、少しだけあるかもしれんがな。


 エリーゼたちに限って、死ぬなんてことはないはずだ。あいつらは俺よりもよっぽど強いし、そう簡単にやられることはない。


 でも、もう会えなくなって二年以上が経過している。さすがに心配になってくる。


 アレックに関しては、アレックから手紙が届いたことでアレックの生死、居場所がわかったが、他の四人からは何も無い。音沙汰無しだ。


 ボレアス大陸に転移したアレックの耳に俺の情報が入ったということは、それなりに遠く離れていても俺のあげた功績は耳に入るはず。それなのに、と考えてしまうと、色々な可能性があたまをよぎる。


「……ごめんなさい。昔のことを思い出しまして、つい」


「おじいちゃんみたいなこと言うわね」


「エリーゼ達のことか」


「ベルの好きな子、だっけーーー」


「さ、さあ!もう日も暮れてきたし、部屋に戻りましょう!そうしましょーう!」


 恋バナは好きだ。だが、自分のことを話す恋バナはあまり好きではない。


 だって、自分の好きな女の子の話なんてされると、顔から『炎弾』が出そうな思いになるんだもん!


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