第233話 潔白証明方法

 三日後。


「俺はストーカーじゃない、俺はストーカーじゃない、俺は……」


 俺は頭がおかしくなってしまった。

 俺はストーカーではない。ストーキング行為をしたと言われれば否定はできないが、俺は俺の事情があっての行動だったんだ。


 この三日間、俺は欠かさず授業に出た。授業のたびに皆に避けられるようになって、一日一日が苦痛だった。


 特待生のみんなは、マシではある。どストレートにストーカー扱いをしてくるようなことはない。

 が、何も言われずに避けられるばかりも、それはそれで辛い。


 ……ていうか、被害者であるはずのロレッタ達と俺は一緒にいるのに、どうしてまだストーカーの疑いが晴れない?


「ベル、そんなに気を落とすな」


「アレックはいいよな。ストーカー扱いされないから」


「普通はされないぞ」


 ケッ!そうだな!普通はされないよな!

 じゃ俺が普通じゃないってか!ハッ!


 俺がこうして皆からの株を落としまくっている間に、何故か相対的にアレックの人気が上がっている。


 どうやら、『ストーカーと仲良くしてあげている心優しいイケメン』と見られているらしい。もう完全に俺は悪役である。


 はぁ……こんなことならあんなことするんじゃなかった。冷静になって考えてみれば、いくらでも他にやりようはあったはず。


 三日前、俺はゼインに全校放送で俺の潔白を示してもらおうとして生徒会室に向かったが、よくよく考えればそのやり方も間違っている気がする。わざわざ生徒会長を動かしてまでそんなことをするのも逆に気持ち悪がられるだろうし。


「何かいい案ないすか、先輩」


「うーん……被害者として見られてるあたし達と一緒にいる時点で誤解は解けるはずなんだけど」


「ですよね」


 ですよねですよね!絶対にそうですよね!おかしいですよね!?


「アーシャ先輩は、どう思いますか?」


「私たちと一緒にいるのに誤解が晴れないってなると、他にやりようはないんじゃないかなぁ……あ」


「ん?何か思いついたの?」


「思いついたって言うか、その……」


 アーシャは一瞬下を向いて、そして表情を変えて俺の顔を見た。


「……交流戦で勝てばいいんじゃないかな?」


 うーん……もっといい案を期待してたんだが……


 確かに、もう他にやりようはない。というか、一緒にいるのに誤解が解けないのがおかしい。そもそもルームメイトをストーキングするなんてこと普通有り得ないだろ。


 もしかして、誰かが根回ししているのか?

 いや、もうやめよう。どう解決させようとしたって無駄なんだ。クソが。


「交流戦で魔法学院が勝利した前例は無い。だから、ベル、アレック、アランの三人で道場代表に勝てれば、それは歴史的快挙だよ」


「一年生の俺が魔術大会で優勝したのも史上初の快挙だったのにこのザマなんですが……」


「そ、そうだけど!もう一回凄いことをすれば、誤解が解ける……っていうか、皆が見直してくれるんじゃないかな?」


「一理あるわね」


「僕も一理あると思う」


 なるほど。なにも誤解を解こうとしなくてもいいんだ。

 見直してもらえるくらい凄いことをしでかせば、信頼は必然的に戻る。


 ーーーアーシャ先輩天才!可愛い!頭いい!


「交流戦って、どういう要領で行われるんですか?」


「私も詳細は分からないわ。なにせ十年に一度の行事よ。それに、あたしは代表選手じゃないし」


「会長に聞くのが一番手っ取り早いんとちゃう?」


 あれ、ナディアが普通に会話に参加している。

 と思ってナディアを見ると、そっぽを向かれてしまった。何で?


 ゼインは一週間に一度学校に来るか来ないかくらいの出席率。病弱であるが故に特例として留年措置はとられないらしいが、生徒会長が居ないのは些か学院内の統一感が心配になる。


 俺は学院内で一位に輝いた。つまり、交流戦で戦う相手も恐らく道場内トップに君臨しているとんでもない強者。どうしてこんなにハードモードなんだろうか。


「代表はアラン先輩と僕、そしてベルだろう?相手がどんなに強くても、この三人ならそう簡単には負けないと思う」


「どんな相手が来るかまだ分からない以上、そんなことは言いきれないだろ?」


「そのくらいの心意気で行けってことさ」


「……なるほど」


 アレックのように、周りから少々引かれるくらいの自意識を持てればいいのかもしれない。自分に自信があることは、決して悪いことではない。

 まあ、自分を過信しすぎるのもあまりいいとは言えないが。


 まだ大会までは一ヶ月くらいある。この間にしっかり準備をしておこう。


 俺のこれまでの戦闘経験を生かすんだ。

 

 『世界四大魔獣』ゴライアス、『大蛇』『四皇』、『剣聖』、『七頭竜ヒュドラ』、『海王』、『天王』。


 ……待て。


 俺、まじでいつ死んでてもおかしくなかったんだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る