第232話 生まれた誤解
大会から一週間。俺とアレックは、もう授業に復帰している。
俺たちの戦い、そしてそれ以前の戦いによってかなりの損傷を負った校舎は、校長の特殊な術式によって一瞬にして直った。
どうして校長が校舎の破壊を許可していたのかがようやく理解できた。
大会で優勝したことで一目置かれる存在になった俺は、廊下を歩くだけでキャーキャー言われるように……
なんてことはない。何故か誰もチヤホヤなんてしてくれない。皆冷静である。
俺としてはもっとこう、『学院一の天才魔術師がいるわよ!』とか、『サインもらってこようかしらっ!』みたいな感じの考えるだけでウハウハな学院ライフが待っていると思っていたのだが。
少々想定とは違ったものの、腐っても学院一の称号を勝ち取ったわけだ。
それはそれとして、最近ナディアの態度がおかしい。
態度がおかしい、というのは決して生意気であるとかそういう意味では無いのだが、以前よりも素っ気ない感じがする。
何かしたかと尋ねても『べ、別に何もないで』の一言で返される。しかも、本当に何もしていないか心配になるような口調で。
そんな感じの生活が一週間続いている今日、ロレッタとアーシャに相談しに行った。
三人が歩いているところのあとをつけ、ナディアがトイレに行ったタイミングを見計らって二人に声をかけるというストーカーのような行為をした。誰かに見られてないといいが……
二人に聞いたものの、やはり何も知らないらしい。参ったものだ。
前まで普通に仲良くしてくれてたのに、急に素っ気ない態度を取られると、割と心に来るんだよなぁ……
心当たりがないといえば嘘になる。魔術大会の準決勝で俺がナディアに勝利したことだ。
彼女が負けず嫌いな性格であることは俺も知っている。だが、その程度であそこまでするとは思えない。普段の優しいナディアも知っているからだ。
「はぁ……」
「ーーーあ、あれがベル・パノヴァ?」
ため息をついた時、物陰で女子生徒三人組が俺を見ているのが見えた。
特待生の宿泊棟では見ない顔だから、きっと一般生徒だろう。
ははーん、やっとチヤホヤされる時がやって来たというわけだ。
この心のモヤモヤ感を、この子達にサインでもして一瞬だけでも忘れようーーー
「ーーーこ、こっちに来た!あっち行こ!」
「?」
あれ、おかしいな。もしかして照れているのだろうか。
まあ確かに、俺が強くてカッチョよくてナイスガイなのは分かるけど、そこまで照れなくてもいいのに。
「ーーーうわっ!ストーカーだ!」
「ーーーストーカーのベル・パノヴァ!」
「逃げろ!」
「……へ?」
え、す、ストーカーだって?俺がいつそんなことを……
ーーーはっ!まさか!ナディアのことを聞き出すためにロレッタ達の後をつけていたのを見られたのか?!
た、確かにあの時の俺は傍から見ればただのストーカーだった。もう少し他にやりようはあったかもしれない。
まずい。変な誤解をされてしまった。
とりあえず、次に会った生徒にストーカーなんて言われた時、弁明しよう。
まだストーキング行為をしていたのはついさっきだ。まだそこまで広まっていないはず……
「ーーーきゃあ!ストーカー!」
「ち、違うんです!それは誤解ーーーブルルッシャア!」
誤解を解こうと一人の女子生徒に一歩だけ近づいた途端、平手打ちが俺の左頬を撃ち抜いた。
一歩近づいただけでこの仕打ち?マジで?
これは……非常にまずいことになってしまったかもしれない。
とりあえず、アレック達に相談しよう。情報量が多すぎる。
俺は部屋に戻ろうと、後ろを振り返って歩き出した。
うう……どうしてこうなってしまったんだ……
「……と、言った感じなんですが」
「あー……何か……ドンマイ……」
おい!それだけかよ、
「君の行動は軽率だった。それに尽きる」
お前もかよ!もっと庇えよ!泣くぞ!
まあ、アレックの言うことは正しい。俺はノリと勢いだけでああいう方法をとったんだから、こうなってしまうことを予想出来なかった俺が百ゼロで悪い。
くそぅ、時間操作魔術とか無いのか?タイムマシーン的な、過去に戻れる魔術みたいなもの。
……無いか。というか、そんなのあったら面白くないな。
でも今は、今だけは切実に欲しい!
「どうやってベルの潔白を証明すればいいのかしらね。
全くの誤解ではあるけど、ベルが全く悪くないかって言われれば、素直には頷けないし」
「私たちの誰かが生徒会長とかだったら、権力が強いから校内放送で潔白を伝えたりは出来たけど……」
「それだぁ!」
それだ!それしかない!
俺は生徒会長のゼインと友達だ!彼に頼んで校内放送をしてもらって、俺の潔白を証明してもらおう!そうしよう!そうするしかないではないか!
俺は扉を勢いよく開けて生徒会室まで全力でダッシュした。
道中で何回か『ストーカーがいる!』と騒がれて、その度に俺は涙を流したが、なんとかたどり着いた。
「失礼します!ゼイン先輩!」
中から応答はない。寝ているのだろうか。
ゼインの体は弱いから、睡眠は人並み以上に大切だろうし、仕方ない。
だが今は状況が状況だろう!起きてくれ!ゼイン!
「失礼します!」
ノックをして挨拶をし、少しの間待ったが、やはり中から応答はない。そんなに深い眠りについているのか。
そもそも中にいない、ということはまずないはずだ。放課後は大体ここにいるからな。
「失礼します!」
応答はない!よし、入るしかないな。これは合法の入室、不法侵入の対義語、合法入室だ。
ドアを押し、中に入る。
……あれ?ゼインがいない。ゼインどころか、生徒会メンバーの誰もいない。
生徒会長の席の机に、なにやら紙が置いてある。
『生徒会長、家にて療養なう』
「ーーー」
……。
そうだった!こいつは病弱であるがあまりあまり学校に来れていないんだった!
ああ!頼みの綱が!希望の光がぁ!
俺は一体、どうなってしまうんだぁぁぁあ!
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