第231話 勝負の行方
「……もはや、魔術など関係無くなってきているね」
「兄さん……」
二人の戦いを見ているナディア達の背後から、生徒会長でありナディアの兄でもあるゼインが現れた。
ベルは病弱であるゼインの代わりの選手として出場している。つまり、ベルの優勝はゼインの優勝とも捉えることが出来る。
「アレック君の攻撃は、正統派の魔術。
対してベルの攻撃は、前代未聞の剣術を交えた魔術。『
「会長的には、どっちが勝つと思いますか?」
「そんなことは分からない。何が起こるか分からないのが、『大会』というものだ。ただ」
ゼインは腕を組み、ベルを目で追う。
「ベルを、信じているよ」
ベルはまるでその言葉が自分に届いたかのように、さらに攻撃速度を上げた。
アレックはようやっとベルの攻撃に順応してきたところだったが、尚も上がり続ける攻撃速度に苦しむ。
『雷脚』を使ってアレックとの距離を詰めたり離したり、更にはその脚で蹴りを入れたり、これまでにはやったこともないような技を取り入れながら戦う。
ベルでさえ見たこともやったこともないのだから、アレックが初見で対応出来るはずがない。
ベルの技には苦しめられている。だが、アレックはベルの動きには追いついている。
決して、ベルが完全な優勢というわけではなさそうだ。
「……っ!」
ベルの隙をついて、アレックは魔術を撃ち込む。
腹部に魔術を食らったベルは後ろに吹き飛ぶ。
背中から突っ込んだ校舎の外壁にはヒビが入り、円形にへこんだ。
もう既に、この学院の校舎はボロボロだ。
激しい戦いが繰り広げられ続けたせいで、外壁にはあちこちに穴が空いている。
いちいちそんなことを気にしていたら選抜大会は開催できないと、校長の承諾も得て校舎を傷つけることが許可された。
無論、故意的に壊すことはもちろんお咎めの対象ではあるが。
壁に叩きつけられた衝撃で身動きが取れないベルを、すかさずアレックは追撃する。
無数の『氷弾』をベルに向けて放ち、次の行動に移させまいと猛攻を仕掛ける。
いくらかなりの攻撃を防ぎきったとはいえ、アレックの体は既に傷だらけである。体力的にはまだ持つものの、肉体がどこまで持つか分からない。
アレックとしては、この追撃で畳み掛けて致命的なダメージを与えたいところだ。
アレックは自分の魔力の持つ限り、魔術を撃ち込む。
土煙でベルが見えなくなるくらいの猛攻を続けるアレックに対し、それをモロに食らっているベルはーーー、
「……」
口から血を吐き、身にまとった服はやぶれかぶれになってしまっている。
アレックは勝ちを確信した。
ここまでボロボロのベルとは対照に、傷は負っているもののまだまだ余裕のあるアレック。仮にベルが再起して動いたとしても、ベルの勝利は厳しい。
「勝負あーーー」
「ーーー勝手に終わらせんじゃねえよ、教頭!」
ベルは壁を蹴り、再度アレックに飛びかかる。
勝利を確信していたアレックは対応できず、尚も動き続けるベルに呆気に取られた。
ベルは『草刃』を六本纏い、それをアレックに飛ばす。
自身も草刃を握り、振りかぶる。
そして、そのままーーー、
「ーーー俺の勝ちだ!アレック!」
振り下ろされた草刃は、アレックの脳天を叩いた。
もちろん、刃で振り下ろしてしまえばアレックは縦に真っ二つ。
ベルが作り出した草刃は、木刀程度の威力しか持たないため、致命傷にはならない。
アレックはその場に膝をつき、うつ伏せに倒れた。
「ーーー勝負あり!」
「「「おぉぉぉぉぉお!」」」
周りから歓声が上がる。
大接戦の決勝戦は、ベルの勝利で幕引きとなった。
「ベル!あなたすごいわ……ベル?」
「ロレッタさん……ちょっともう、無理そうで……」
ベルは、アレックに覆い被さるように倒れた。
ーーーベル視点ーーー
「……んあ」
俺は勝った。勝ったのだ。アレックに。
ここは医務室だろう。そして今俺が寝ているベッドは、アランを説得したベッドだ。
アレックに勝利したあと、俺は力尽きてその場に倒れた。
表彰式が行われる予定だったらしいが、表彰される三人のうち上位二人が倒れたため、また後日執り行われることとなった。
ちなみに、俺たちの決勝戦が終わったあとに三位決定戦があったということも聞いた。
準決勝で俺と熾烈な戦いを繰り広げたナディアと、アレックが一瞬で決着をつけたアランの戦いは、それはもう盛り上がったらしい。
ただ、決勝戦よりも前に行うべきだと俺は思うんだが……
そして、三位決定戦はアランの勝利に終わった。
負けたナディアの方は相当悔しかったらしく、今も部屋で心を落ち着かせているんだとか。
……という旨の報告を、さきほどここを訪ねてきたロレッタから聞いた。
「……んん」
「……アレック、起きたか」
横に寝ていたアレックが目を覚ましたようだ。
医務室の先生の治癒魔術によって俺たちの傷は完治しているが、肉体的な疲労が酷くて動けない。寝返りをうつのがやっとである。
「……ベル」
「なんだ?」
「……君には完敗だ。きっと、これからも勝てそうにない」
「そんなことない。実際、練習の時は何回かお前に負けたぞ」
「確かに、最初の方は僕が勝っていたかもしれない。
でも、それはまだ互いの手の内をよく知らなかったからさ」
アレックは起き上がって、壁に寄りかかって座った。
ゆっくりと首を上に動かし、その視線は天井の一点を見つめている。
「久しぶりの再会で、相手がどれだけ力をつけてきたか分からない状態だったから、僕は偶然勝てたんだと思う。
僕の魔術に適応し始めた君には、徐々に勝てなくなって行ったからな」
「でも、決勝戦でアレックが使ってた魔術は、俺が知ってるアレックの魔術よりも遥かに凄かったぞ。
見たことある魔術でも、見たことない強さの魔術だった」
「魔術では僕の方が上かもしれない。でも、実際に戦うとなれば、君の方が遥かに強い。
それが、今回の戦いで証明された」
アレックはふっと微笑んで、目を閉じる。
そして、俺にゆっくりと視線を移し、
「……おめでとう、ベル」
「……」
この一言で、俺は改めて実感した。
ーーー俺は、正真正銘、この学院で一番になったと。
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